恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
 それから暫くして、

「……あれ……?」

 不意に来海の視界が揺れて違和感に眉を寄せる。

「どうかしましたか?」

 向かいに座る大輔が穏やかな声で問いかける。

「……なんか……急に……」

 頭がぼんやりとして思考が上手く纏まらないのか、言葉も続かない来海。

(……なに、これ……急に……眠気が……)

 更に身体の感覚が鈍くなっていくのを感じ戸惑っていく。

 その様子を見た大輔は、わずかに表情を曇らせるフリをした。

「顔色が悪いですよ? 大丈夫ですか?」
「すみません……なんだか、急に……目眩が……」
「それはいけないですね。今日はもう帰りましょう。駅まで歩けそうですか?」
「…………」

 大輔の質問に返事は無く、来海はただ、ぼんやりと視線を彷徨わせるだけ。

「……無理そう、ですね。では、タクシーを呼びますから」
「……すみません……」
「いえ、お気になさらず」

 それから大輔はタクシーを呼んでカフェでの会計を手早く済ませると、ふらつく来海を支えるようにして店の外へと連れ出した。

 店から少し離れた場所に停まったタクシーの前まで辿り着くと、運転手がドアを開けた。

「どうぞ」

 大輔は来海を先に車内へと乗せ、自分も続こうとした、その瞬間――

「――っ!?」

 腕を強く掴まれたことで反射的に振り返ると、

「彼女の付き添いなら、俺が代わりますから」

 そこに立っていたのは――隠しきれない程に怒りを露わにした充輝だった。
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