恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
 その視線は氷のように冷たく明確な敵意を帯びていて、まっすぐ大輔へと向けられている。

「……羽柴さん」

 大輔は一瞬だけ目を見開くも、すぐにいつもの調子を取り戻した。

「驚きました。何故ここに?」
「貴方に答える義理は無いです」

 即座に返される冷え切った言葉に空気が一気に張り詰めていく中、車内でぐったりとした来海がかすかに顔を上げて、

「……みつ、……き……?」

 途切れ途切れに充輝の名前を口にする。

 意識が朦朧としていることもあり夢かもしれないと思いつつも、充輝の姿を見つけたことで来海の表情は、わずかに安堵しているようだった。

「来海、大丈夫?」
「…………う、ん……」

 弱々しい返事を見て明らかに様子がおかしいと感じた瞬間、充輝の表情が一段と険しくなって再び大輔へと視線を戻した。

「……アンタ、来海に何かしただろ」
「何もしていませんよ? したという証拠でもありますか?」

 あくまで淡々とした返答に、

「…………チッ」

 充輝は舌打ちを漏らす。

 確信はあるが、決定的な証拠がないという事実が余計に苛立ちを募らせていた。

 そんな重苦しい空気が流れる中、

「お客さん、トラブルは困りますよ……」

 運転席から遠慮がちな声と共に、タクシーの運転手が困ったように二人を見ていた。
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