恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
「俺も今日聞いた話なんだけどさ、是枝さん、昔知人に騙されたとかで金に困ってたらしくて、そんな時に親父に助けられて、それがきっかけで仕えるようになったんだって。真面目で仕事も出来る人だから親父も信頼してたみたいで、会社が大きくなってから正式に社長補佐として側に置いたとか」

 充輝は一瞬だけ言葉を区切る。

「……二人は良き理解者で良きパートナーだったようだけど……でも、会社がでかくなるにつれて親父が変わったみたいなんだ」

 充輝の声がわずかに低くなる。

「何をするにも利益優先、それ以外は全部後回し。利益に繋がらないものは容赦なく切り捨てる」
「……そんな……」
「けど、それだけじゃ回らない部分もあったみたいで、そういうところを、ずっと裏で支えてきたのが是枝さんだったんだ。表に出ないところで手を回してバランスを取ってた」

 充輝自身、話を聞いたことで確信していた。

 今の父親が好き勝手にやれていたのは、その陰で支え続けてきた存在があったからなのだと。

「要するに、親父がああやっていられたのは、是枝さんがいたからだ。でも……今回の俺の縁談の件は、あの人一人の力じゃどうにもならなかったらしい。そのことで相当困ってたみたいだ」
「…………」
「とにかく是枝さんは親父とは違う。政略結婚にも反対してるから俺に全部話してくれたし、ちゃんと話が通じる人だから安心して」

 充輝ははっきりと言い切ると暫くの間、何も言わずにいた来海がぽつりと呟く。

「……そう、だったんだ……」

 その声には、どこか安堵が滲んでいた。

 見えないところで自分たちの為に動いてくれている人物がいる――その事実が、わずかに来海の心を軽くしたようだ。
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