恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
 暫くの静寂の後、充輝はゆっくりと口を開いた。

「……それで、これからどうするかだけど……親父とは、もう一度きちんと話すつもりだ」
「……話す……」
「ああ。ただ一人で行くと正直どうなるか分からないから……力になってくれる先輩がいて、その人に間に入ってもらって話をするよ。その先輩に、逃げる形で居なくなるのは違うだろうって言われたからさ、もう一度ちゃんと、自分の口で伝えるよ。俺がどうしたいのか」

 一呼吸置いて充輝は言葉を続けた。

「……堂々としていたいんだ、縁談を断ることも、来海と付き合うことも……」

 そして、まっすぐに来海を見る。

「何も悪いことじゃないもんな、俺が縁談を断ることも、来海と共に生きることも」

 その一言に、来海の胸には嬉しさが込み上げてくる。

「……うん……」

 小さく頷きながらも視界が少し滲む。

 こんな風に真っ直ぐ言い切ってくれることが、どうしようもなく嬉しかったのだ。

「……充輝」
「ん?」

 来海は少しだけ震える手を伸ばすと、充輝の服の裾をそっと掴む。

「……もう、離れたくない。私は、充輝さえいれば……他には何もいらないから…………だから……離れないで……傍に、居て……」

 真っ直ぐに向けられる言葉と視線は、不安と願いで溢れていて、その全てを受け止めるように充輝は静かに息を吐き、

「うん、不安にさせて、一人にさせて本当にごめん。もう二度と、来海を置いていったりしない。離したりしないから安心して」

 そう想いを伝えながら、来海の身体をギュッと強く抱き締めた。
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