恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
二人のこれからへの一歩
 暫く無言のままで抱き合った後、充輝は来海の身体を抱き締めたまま、静かに問いかけた。

「……身体、辛くない?」
「うん……あの時はすごく眠かったけど……今は……だいぶスッキリしてる」

 その答えを聞いた瞬間、充輝の肩からふっと力が抜けた。

「……そっか」

 安堵の色が滲む表情を見せた後、来海の身体をそっと離し、わずかに視線を落としながらポツリと呟いた。

「……ごめん」
「……え?」

 突然の謝罪に来海は驚いたように目を瞬かせる。

「何で、謝るの……?」

 真っ直ぐに向けられる問いに充輝は一瞬だけ言葉を詰まらせるも、覚悟を決めたように口を開く。

「……さっきの、急に体調が変になった原因だけど……それは、真白が睡眠導入剤を来海の飲み物に入れて、それを来海が口にしたからなんだ」

 その言葉に来海の表情が固まった。

「……え……?」

 予想すらしていなかった事実に思考が追いつかない。

 確かに来海の中で、あの異様な眠気には違和感があった。

 だが、それが薬によるものだったことも、それを大輔が意図的に仕込んだことも――そして何より、それを充輝が知っていたということも。

「充輝は……それを、知ってたの……?」

 充輝なら、そんな状況になる前に止めてくれるはずだと思っていたからこそ、その事実を受け止められない来海は震えた声で問いかける。

 けれど、

「……俺が知ったのは、来海が目を覚ます少し前のことで、そもそもこれは是枝さんが仕向けたことなんだ」
「……え……?」

 予想外の言葉に来海は息を呑む一方で、充輝はその反応を受け止めながら落ち着いた声音で続けた。

「これについてもきちんと説明するよ」

 そう前置きをして事の経緯を一つ一つ辿るように話し始めた。
< 137 / 170 >

この作品をシェア

pagetop