恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
 そして少しの沈黙の後、ぽつりと充輝が口を開く。

「来海を連れてマンションに帰ったタイミングで是枝さんから電話が来て、全てを聞いた……謝られたよ」
「……え……?」
「来海にも、俺にも悪いと思ってるって。でも……それでも証拠を取ることを優先したって」
「…………」

 来海は何も言えず、ただ聞いている。

「正直さ……」

 充輝は一度言葉を切り、ぐっと拳を握った。

「責めるのは違うのかもしれないし、是枝さんなりに考えて動いた結果だってのも分かるけど……それでも、やっぱり腹は立った。いくら身体に影響がないって言われても……来海を危険に晒したことに変わりはないからな」
「充輝……」
「……でも、そもそも……こんなことになった原因は俺だ」
「……え……?」

 来海が驚いたように目を見開く。

「逃げたつもりは無かったけど、俺が来海の傍を離れたからだよ」
「そんな……だって充輝は……」
「いや、やっぱり何があろうと来海の傍を離れるべきじゃ無かった。そうすれば、少なくとも、来海が危険な目に遭うことは無かったんだ……だから、ごめん」

 今度の謝罪は先程よりもずっと重く、真っ直ぐなものだった。

 その謝罪の言葉に来海はすぐに首を横に振った。

「……謝らないで」
「……来海」
「私はこうして無事だったから……大丈夫」

 自分を責める充輝に来海はゆっくりと言葉を紡ぐ。

「だから……自分を責めないで」

 その言葉を受け止めた瞬間、充輝の胸の奥で張り詰めていたものが一気に緩む。

「…………っ」

 思わず込み上げてきた感情に充輝はわずかに顔を歪めたけれど、それを見せまいとすぐに来海を引き寄せる。

「……充輝?」

 戸惑う声を遮るように強く抱き締めるその腕は、さっきよりもずっと力強かった。
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