恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
 翌朝、来海はいつも通りに出勤していた。

「……大丈夫?」

 同僚にそう声をかけられ、来海は少しだけ驚いたように顔を上げる。

「え……?」
「その、昨日はちょっと顔色が悪そうだったから」
「ああ……うん、もう大丈夫」

 小さく笑って答えると、それ以上は何も言われなかった。

 周りは直接的には触れないが、充輝のことで来海が落ち込んでいるのでは無いかと心配していた。

 それを理解している来海は今はまだ何も話せないことを申し訳無いと思いつつ、昨夜充輝と交わした約束を思い出して、早くこの件が解決することを願っていた。

 一方その頃、充輝は自宅でスマートフォンを耳に当てていた。

『……はい』

 相手は是枝で、これからのことについて話を持ち掛けた。

「今、大丈夫ですか?」
『はい。向坂様の体調、お戻りになられたようで安心致しました』
「……ああ、うん。それで、例の件なんですけど」
『社長には責任を持ってお伝え致します。恐らく本日の夜には話し合いをすると言い出すかと思いますが、充輝様の付き添いで来られる方のご都合は問題ございませんか?』
「はい。先輩に連絡をして恐らく今日の夜になるかもしれないと伝えたら、夕方までにはこちらに来てくれることになっているので、今日でも明日でも問題無いです」
『かしこまりました。それでは、早速社長に話をして、後ほど結果をお伝えさせていただきます』
「……頼みます」

 用件を話し終えるとすぐに通話が切れた。

 そして――社長室に向かった是枝はすぐに報告する。

「充輝が見つかっただと?」

 机の向こうで父親が鋭い視線を秘書へと向ける。

「はい。充輝様は現在、こちらに戻られております」
「ならばすぐに連れて来い」

 間髪入れずに命じられる言葉に、是枝は一歩も引かなかった。
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