恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
「……それについてですが」
「何だ」
「充輝様は話し合いの場を設けたいと仰っております」

 その瞬間、空気が張り詰める。

「……話し合いだと? くだらない。そんなものは必要ない」

 その言葉を聞いた父親は『必要無い』と一喝するも、是枝は静かに続ける。

「しかし――」
「不要だと言っている」
「……社長」

 普段は声を荒らげない是枝の声音がわずかに強くなる。

「ひとまず、充輝様の要求を飲まれる方がよろしいかと」

 流石の父親も普段の是枝の態度と違うことに気付いたのか、眉をピクリと動かしつつも静かに問い掛けた。

「……何故だ」
「これからのことをお考えになるのであれば、尚更です」

 その一言に、わずかな沈黙が落ちる。

 父親は暫く何も言わずに是枝を睨みつけていたが、やがて舌打ちを一つした後、

「……いいだろう。その代わり、無駄な話をするつもりなら容赦はしないと伝えておけ」
「承知しております」

 話し合いをすることを了承した。

 そして、その日の夜、重苦しい空気の漂う一室に四人が集まっていた。

 父親の横に是枝が、その向かいに充輝と裕太が座っている。

「……で?」

 まず初めに口を開いたのは父親だった。

「わざわざ場を設けさせ、部外者まで同席させて、何を話すつもりだ」

 鋭い視線が充輝へと向けられるも、充輝は一切怯むことなくその視線を受け止めた。

「……決まってるでしょう。俺の意思を伝えに来た」

 そして充輝のその言葉を合図に――話し合いの幕が開けたのだった。
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