恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで【完】
 わなわなと肩を震わせ、絞り出すように言葉を吐く。

「……お前……録音していたのか?」

 対する是枝は、いつもと変わらぬ静かな表情のまま、はっきりと頷いた。

「はい。社長の言動は目に余るものがありましたので」
「貴様、恩を仇で返すつもりか?」

 机に手をついたまま父親が鋭く睨みつけるも是枝は一歩も引かない。

「決してそのようなつもりはございません。私は社長に考えを改めてもらいたいだけです」
「ふざけるな!」
「ふざけてるのはどっちだよ!?」

 二人の間に割って入ったのは充輝だった。

 張り詰めた空気を切り裂くようなその一言に父親の動きが止まる。

「あんたの方だろ!?」
「……」

 充輝の怒りに満ちた視線を受けた父親は言葉を失った。

「是枝さんがあんたの為に何をしたか、どんな気持ちでしたか、考えたことあんのかよ!? ここまであんたのこと考えてくれる人なんていねぇよ。いい加減にしろよ!」
「充輝様……」

 充輝の言葉に是枝は微かに目を伏せる。

「あんたが捨て駒にした真白が来海に何をしたか知ってるか? 睡眠薬盛って、どこかに連れて行こうとしてたんだぜ?」
「…………」

 父親は何も言わないものの僅かに眉が動いた。

「犯罪だよ、もう……。それを促すように命令したあんたも、同罪だ」
「そんなこと、真白が勝手にやっただけだろう」

 即座に返ってきた言葉に充輝の目が更に険しくなる。

「だとしても、そう仕向けたそもそもの原因はあんただろ? これ以上話してても埒が明かない。俺は是枝さんの持ってる証拠を持って来海と一緒に警察に行くよ」
「なっ、」

 その瞬間、父親の顔色が変わる。

「あんたも真白も許せねぇからな」
「お前……そんなことをすればどうなるか分かっているのか? 会社はどうなる!? これまで築き上げてきたもの全てが無駄に……」
「そういうとこだよ」

 充輝は吐き捨てるように言った。

「この期に及んでまだそれかよ? 呆れて言葉も出てこねぇわ」

 呆れた充輝がふっと視線を是枝へ向ける。

「是枝さん、もう諦めた方がいいですよ、この人は変わらない。貴方はこんな人に付いているなんて勿体ないです」
「充輝様……そんな風に言ってはいけません」

 是枝はゆっくりと首を横に振り、

「私は、社長なら分かってくださると信じておりますから」

 揺るがぬその言葉に、充輝はそれ以上何も口にはしなかった。
< 146 / 170 >

この作品をシェア

pagetop