恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
 充輝は駆け寄ってきた来海を見て、少しだけ表情を和らげた。

「来海、どうしてここに?」

 充輝がそう問い掛けると来海は少し息を整えながら、

「心配だったから……」

 一言答えた。

「……そっか」

 充輝が短く頷いたその時、来海の視線が隣へ移り、裕太の存在に気づいたようではっとして姿勢を正した。

「あっ……すみません、いきなり来てしまって……失礼しました」

 ぺこりと頭を下げる来海に裕太はにこやかに笑う。

「いいよいいよ、気にしてないって」

 柔らかなその一言に来海は少しだけほっとしたように表情を緩めた。

 充輝はそんな二人を見て軽く息を吐く。

「来海、この人は俺が大学時代からお世話になってる駒橋 裕太さん」
「初めまして、向坂 来海です」
「こちらこそ初めまして」

 互いに挨拶を済ませた裕太と来海は笑顔を交わした。

「充輝も向坂さんも大変だと思うけど、何かあれば力になるから、遠慮なく言ってくれな。それじゃあ、俺はこれで」
「裕太さん、今日は遠いところありがとうございました。本当に助かりました」
「気にすんなって。それじゃ、またな」

 そして、裕太は軽く手を振ると二人の元から去っていく。

 その背中を見送った後、充輝は来海に向き直り、

「……車、近くのコインパーキングに停めてるんだ。送るから行こう」
「うん」

 二人は並んで車まで歩いて行った。

 車に乗り込みエンジンをかけると、充輝は静かに話し始める。

「話し合いの結果だけど」
「……うん」
「親父は相変わらずだったよ。でも、是枝さんが証拠出してくれて……流石の親父も少しは何か思うことがあるんじゃないかと思う」

 来海は口を挟むことなく、ただ黙って聞いていく。

「明日一日だけ待って、それでもあの人が変わらないなら――親父が唆した証拠と真白が薬を盛った証拠とか全てを是枝さんから貰って……警察に行こうと思う」

 静かに告げられたその決意に、来海は少し躊躇うように口を開いた。

「……本当に、良いの?」

 その問いに、充輝は前を見たまま答える。

「いいんだ……あそこまで言っても変わらないようであれば、これから先も変わらないんだから」

 それは迷いの無い答えで、来海は何も言えず、ただその横顔を見つめ、やがて小さく頷いた。

「……そっか」

 この日は来海を家まで送り届けてそのまま別れ、翌日も出社することをせずに自宅でこれからのことを考えていた充輝の元に是枝から着信が入った。
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