恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
「……もしもし」
『充輝様、社長が、もう一度話がしたいと申しております。今夜、お会いしていただくことは可能でしょうか?』

 是枝の落ち着いた声が耳に届く。

 充輝は一瞬だけ視線を落とし、短く息を吐いた。

「……分かりました。行きます」

 そう答えた直後だった。

『ありがとうございます。その際、向坂様もご一緒に来て欲しいのですが』
「来海も?」

 思いがけない言葉に思わず問い返す。

『はい』

 わずかな間が生まれ、充輝は数秒考え込んだ後、静かに頷いた。

「……分かりました」
『ありがとうございます。それでは、時間と場所は後程ショートメッセージにてお送り致しますので、失礼します』

 用件を伝えられて通話が切れ、手にしたスマートフォンを見つめながら充輝は小さく呟いた。

「……来海も一緒に……。それは、どういう意図があるんだ……?」

 そこに疑問は残るが、話し合いの場に呼ぶ以上、軽率なことにはならないはずだとも思う。

 そして、ゆっくりと目を閉じ、昨夜の光景を思い出す。

「親父……これ以上失望させないでくれよ」

 あの時間が無駄ではなかったと、そう信じたかった。

 少しでも父親が考えを改め、これからを見据えてくれていることを願いながら充輝はその時を待った。

 そして、夜。

 仕事を終えた来海を会社近くで拾い、二人は車で指定された料亭へと向かっていた。

「……どうして、私まで一緒なのかな?」

 昼休みに事情を聞かされて以降ずっと疑問が残っていた来海が不安気に呟く。

「それは分からないけど……」

 充輝はハンドルを握りながら横目で来海を見た。

「どんな話し合いになっても来海のことは俺が守るから。安心して」
「……うん」
「とにかく、今日のこの話し合いで全て終わりだから……来海にも、それを見届けて欲しい」
「……うん」

 やがて車は料亭の駐車場へ辿り着き――

「行こうか」
「うん」

 互いに小さく頷き合って車を降りた二人は父親の元へ向かって行った。
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