恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで【完】
 襖の前に立っていた大輔は部屋の中の光景を見た瞬間、僅かに目を見開いた。

「……え……?」

 充輝と来海の姿に気づき、明らかに戸惑いの色を浮かべる。

「…………」

 状況を飲み込めていない様子で立ち尽くす大輔に是枝が静かに声を掛けた。

「どうぞ、中へ。こちらにお座りください」

 そう言って自分が座っていた場所を示すと、促されるままに大輔は部屋に入り、その場に腰を下ろした。

 そして是枝は改めて場を見渡し、ゆっくりと口を開いた。

「それでは、話を進めさせていただきます。真白様に来ていただいたのは、ある件について話をしてもらう為なのですが……心当たりはございませんか?」
「……いえ、見当がつかないです……」

 視線を逸らし俯きながら答える大輔に、充輝の鋭い視線が突き刺さる。

「先日、向坂様と真白様お二人でお会いしていた件でございますよ」
「…………」

 是枝の言葉に大輔の表情が強張る。

「あの日、何をしたのか言えよ、自分の口から」

 何も言わない大輔を前に低く抑えた怒りを滲ませた充輝。

 それでも大輔は口を開かず、その態度を見た是枝が更に一歩踏み込む。

「……真白様には申し訳ないと思っておりますが、その件に関しては全て証拠を揃えておりますので、出来ればご自分の口からこの場で説明をお願いいたします」

 その瞬間、

「是枝さん、話が違うじゃないですか!」

 大輔が声を荒げ、怒りと焦りが混じった表情で是枝に食って掛かろうとした、その時、

「――真白くん」

 低い声がそれを制した。

「……すまない。全ては私の責任だ。ひとまず落ち着いてくれ」
「社長……」

 思いがけない言葉に大輔が言葉を失う中で、是枝は深く頭を下げた。

「真白様、申し訳ございません。私は社長と貴方の企ての証拠を押さえる為に……貴方を利用しました」
「……!」
「薬の件も全て、充輝様にお話ししております。ただ――やはり貴方からも充輝様は勿論向坂様にも謝罪をして欲しいのです」

 そして、今度は来海へと向き直り、

「向坂様、この度は本当に申し訳ございませんでした」
「是枝さん……」

 頭を下げる是枝を前に来海は戸惑いながらもその姿を見つめていく。

 その光景を見ていた大輔はぎゅっと唇を噛み締め、小さく拳を握りゆっくりと顔を上げる。

「……向坂さん」

 それから視線をまっすぐ来海へ向けると、

「申し訳、ございませんでした」

 観念したように深く頭を下げて謝罪の言葉を口にしたのだった。
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