恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで【完】
「……仕事に関して、俺は海外支社へ行く気は絶対に無い」
「…………」

 父親は何も言わず、ただ、その視線を受け止めている。

「ただ、会社の今後を考えるなら、優秀な人間が行く方が良いと思う。そこで――」

 充輝は一呼吸置いて視線を大輔へ移す。

「真白を海外へ行かせるのが、俺は一番だと思う」
「……!」

 突然の指名に大輔の肩がびくりと揺れる。

「別に情けを掛ける訳でもないけど…………確かな実力があるし、それに――俺や来海に関わらないって意味でも、そうしてもらえる方が安心だからな」
「…………」

 大輔は何も言えず、ただ視線を落とす。

 充輝は再び父親へと向き直る。

「それから、俺の今後のことだけど……親父が羽柴家との繋がりを切るな、仕事を辞めるなって言うなら、そこは要求を飲むよ。別に親父に言われたからとかじゃなくて、仕事自体は好きだし、これからも頑張りたいって思ってる」

 その一言に父親の表情が僅かに動く。

「ただし――俺は来海と別れるつもりは一切無い。来海のいない未来は考えてないから」

 ハッキリ言い切ったその言葉に、来海は思わず息を呑む。

「それを踏まえた上で、この先何があっても俺や来海の気持ちを蔑ろにしないこと。自分の意見を押し付けないことを約束して欲しい」

 沈黙の中、父親は表情を崩さぬまま、じっと充輝を見つめ、

「……分かった…………約束しよう」

 出された条件に納得をして静かに頷いた。
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