恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで【完】
 父親の口からはっきりと約束の言葉が出た瞬間、是枝の表情が緩んだ。

「……社長……」

 これまで抑えていた感情が溢れたように、その瞳には微かな潤みが浮かぶ。

 一方で大輔も静かに顔を上げ、充輝と来海に視線を向けると改めて頭を下げる。

「……今回の件、本当に申し訳ございませんでした。それから…………海外行きを推薦してくださったこと、犯罪紛いの行為を許してくださったこと、本当にありがとうございました」

 充輝はそれに何も答えなかったけれど、来海は少し戸惑いながらも小さく首を振る。

「いいんです。もう、終わったことですから」

 その言葉に大輔は静かに頷いた。

 場の空気が落ち着いたのを見て是枝が再び口を開く。

「それでは、今後の会社運営についてですが――」

 そこから語られたのは、具体的かつ現実的な提案の数々だった。

 NRGグローバルホールディングスへの謝罪に海外支社の体制の見直し、人材配置の最適化、取引先の再精査――それはどれも既に綿密に考えられていたものばかりで、充輝はその話を聞きながら、ふっと小さく息を吐いて是枝へ視線を移す。

「……やっぱり、是枝さんがいれば、これからも会社は大丈夫だと思います」
「充輝様……」
「親父のこと、これからもよろしく頼みます」

 その言葉に是枝は一瞬目を見開いた後、力強く頷いた。

「……はい。お任せください」
「親父も、是枝さんの意見をきちんと聞いて、これから先は利益よりも何よりも、尽くしてくれる社員たちを最優先に考えてくれよ」
「……分かっておる」

 こうして、一連の話し合いは一同が納得いく形で終わりを迎えることとなり、充輝と来海は先に料亭を後にした。

「……はぁ……」

 車へ戻ると、充輝の口から大きく息が漏れ、張り詰めていたものが一気にほどけたように肩の力が抜けていく。

 すると、その隣で来海が静かに口を開いた。

「……充輝」
「ん?」
「ありがとう……私の意見、ちゃんと聞いてくれて」
「……」

 来海の言葉に充輝は一瞬だけ目を伏せ小さく笑った。

「いや、それを言うなら俺の方だよ」

 来海の方を向いて、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「これまで巻き込んでごめん。辛い思いも沢山させて……ごめん」
「充輝……」
「どんな状況になっても、信じて付いてきてくれて、ありがとう」

 その言葉に来海の瞳が潤み、涙が零れそうになるのをぐっと堪えながら、

「当然だよ、だって私は……充輝のことが、大好きなんだから……」

 溢れる想いを口にした。
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