恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
 来海を背に庇うように一歩前へ出た充輝は泰斗に挨拶とは程遠い露骨な敵意を孕んだ視線を向ける。

 その挑発とも取れる視線を正面から受け止めた泰斗は眉を顰めた。

「誰だよ、お前。来海の知り合いか?」
「少なくとも、彼女を困らせる奴に教える義理はないな」

 冷え切った声音に泰斗の口元がわずかに歪む。

 面白がるような笑みの裏には明確な苛立ちが滲んでいたものの、充輝はそれを気にすることもなく来海の身を案じて問いかけた。

「大丈夫?」

 そんな短い問いかけに来海が小さく頷くと、その様子を見ていた泰斗は不機嫌そうに目を細めた。

「へぇ……要するに、そういう関係ってわけか」

 火花が散るように充輝と泰斗の視線が交錯して張り詰めた沈黙が流れる中、来海がそっと充輝の袖を掴んだ。

「……もう行こう。そろそろ昼休みも終わっちゃうから」

 その言葉に充輝は泰斗から視線を離すと来海を気遣うように頷いた。

「そうだね」

 二人は並んで歩き出し、残された泰斗は去っていく二人の後ろ姿を無言のまま見つめていた。

 会社の入り口が見えてきた頃、充輝が小声で切り出す。

「仕事の後、さっきのこと……詳しく話を聞かせてほしい」

 来海は一瞬迷うように視線を伏せた後で弱く笑う。

「……話します。でも……」

 そして周囲を気にするように辺りを見回してから言葉を続けた。

「会社の人に見られて、変な噂が立つのは嫌だから……少し離れた場所で待ち合わせしてもいいですか?」
「もちろん。それじゃあ、仕事が終わったら連絡して。ここに電話してくれれば向かうから」

 そう言って充輝は胸ポケットから名刺を取り出し手渡すと、それを受け取った来海は静かに微笑んだ。

「ありがとう。それじゃあ、後で連絡しますね」

 短いやり取りを交わし、二人はそれぞれの部署へと戻っていった。
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