恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
交わることの無かった二人
寒さが少しずつ和らぎ、ほんのりと春の匂いが混じり始める頃――HSBホールディングスの社内には、ある噂が広がっていた。
その噂というのは、海外支社で目覚ましい成果を上げた社長の息子――羽柴 充輝が本社に戻ってくるというものだった。
その話題は瞬く間に女性社員たちの間で拡散され、昼休みの社員食堂や給湯室、ロッカールームに至るまで、どこへ行ってもその名前が囁かれていた。
彼の写真をどこからか手に入れた一部の女性社員たちがスマートフォンを回し見し、「やっぱりイケメン」「海外仕込みの雰囲気がある」などと声を弾ませる姿も珍しくない。
その一方で、そんな熱気とは無縁の人物もいた。
書類の整理や社内手続き、備品管理など会社の裏側を支える総務課で事務として働く向坂 来海は、いつもと変わらない静かな昼休みを過ごしていた。
HSBホールディングスは、クラウド管理システムや業務効率化ツールの開発を主力とするIT企業で、充輝は会社の創業社長の息子であり、来海と同じ年に入社した同期でもある。
もっとも「同期」と言っても入社式で一度見かけただけで、言葉を交わしたことすらないのだが。
というのも、彼は入社直後からシステム課に配属され、社長の息子という立場も相まって、半年も経たないうちに海外支社へと異動してしまったからだ。
ただ一つ、彼について耳にしたことがあるとすれば――女好きで、遊び人――言わば『来る者拒まず去るもの追わず』な精神で女を取っかえ引っ変えしているという噂。
実際、海外赴任前から複数の女性社員と親しげに話していた姿や、飲み会の席でも女性を侍らせていたという話は社内を巡っていたし、真偽はともかく、来海はそれを聞いて「羽柴 充輝は女性関係にだらしない人なのだろう」と漠然とした印象を抱いていた。
その噂というのは、海外支社で目覚ましい成果を上げた社長の息子――羽柴 充輝が本社に戻ってくるというものだった。
その話題は瞬く間に女性社員たちの間で拡散され、昼休みの社員食堂や給湯室、ロッカールームに至るまで、どこへ行ってもその名前が囁かれていた。
彼の写真をどこからか手に入れた一部の女性社員たちがスマートフォンを回し見し、「やっぱりイケメン」「海外仕込みの雰囲気がある」などと声を弾ませる姿も珍しくない。
その一方で、そんな熱気とは無縁の人物もいた。
書類の整理や社内手続き、備品管理など会社の裏側を支える総務課で事務として働く向坂 来海は、いつもと変わらない静かな昼休みを過ごしていた。
HSBホールディングスは、クラウド管理システムや業務効率化ツールの開発を主力とするIT企業で、充輝は会社の創業社長の息子であり、来海と同じ年に入社した同期でもある。
もっとも「同期」と言っても入社式で一度見かけただけで、言葉を交わしたことすらないのだが。
というのも、彼は入社直後からシステム課に配属され、社長の息子という立場も相まって、半年も経たないうちに海外支社へと異動してしまったからだ。
ただ一つ、彼について耳にしたことがあるとすれば――女好きで、遊び人――言わば『来る者拒まず去るもの追わず』な精神で女を取っかえ引っ変えしているという噂。
実際、海外赴任前から複数の女性社員と親しげに話していた姿や、飲み会の席でも女性を侍らせていたという話は社内を巡っていたし、真偽はともかく、来海はそれを聞いて「羽柴 充輝は女性関係にだらしない人なのだろう」と漠然とした印象を抱いていた。