恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
 仕事終わりには必ず一緒に帰ること。

 業務の都合上どうしても一緒に帰れない時はタクシーを使うこと。

 休日も、外出の際は互いに連絡を取り合うこと。

 それは表向きには“安全のための取り決め”だったが、いつの間にか二人の距離を縮める習慣になりつつあった。

 会社からの帰り道、充輝はごく自然に来海の隣を歩く。

 歩幅を合わせ、さりげなく車道側に立つ。

 その一つ一つが計算されたものではないと分かるからこそ、来海の胸には安心感が広がっていった。

「……毎日、本当にありがとう」
「気にしなくていいよ、俺がしたいからしてるだけなんだし」

 短いやり取りの中で交わされる視線や、並んで歩く距離が少しずつ来海の心を満たしていく。

 その一方で、二人の関係性は泰斗の感情を逆撫でする。

 再会して以来、来海が別の男と親しげに寄り添っているその事実が、泰斗にはどうしても許せなかった。

 彼は後悔していた。

 これまで数多くの女性と付き合ってきた中で、最も気楽で扱いやすかったのが来海だったと気づいたから。

 そして、再会したことをきっかけにヨリを戻したいと勝手な理由から再び距離を詰めようとするも、来海の隣には常に充輝が居て近づくことすらできない状況に苛立ちは募り、その怒りは嫌がらせという形で来海に向けられたのだ。
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