恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
 待ち伏せから始まり職場や自宅最寄り駅周辺の徘徊。

 充輝は異変を察して来海に危険が及ばないよう慎重に動いていたが、どこから突き止めたのか、泰斗は来海の住むアパートに辿り着いてしまう。

 ある日の仕事終わり、充輝が来海を送り届けてアパートを離れると、敷地内に身を潜めていた泰斗は来海の部屋の前に立った。

 インターホンが鳴り、画面に映った来訪者の姿を見た瞬間、来海は言葉を失った。

(……どうして、ここが)

 応対することもできず、震える手で充輝に助けを求めるメッセージを送る。

 けれど居留守を使われた泰斗は苛立ちを露わにしながらドアを強く叩いた。

「居るのは分かってんだよ! さっさと開けろよ!」

 低く荒い声が、扉越しに突き刺さる。

 ますます恐怖で体が動かず、玄関から離れた場所で息を潜めることしか出来ない来海。

 ほどなくして充輝から電話が入る。

『今すぐ戻るから、何を言われても絶対に出ないで』
「……分かった」

 充輝が来てくれる、その事実が何よりも来海には心強かった。

 幸いにも充輝はまだ電車に乗っておらず、すぐに引き返して来る。

「何してるんだよ」

 玄関先に居座る泰斗と顔を合わせた充輝の低い声が来海の耳に聞こえてくる。

「関係ないだろ。俺は来海と話があんだよ」
「関係ある。彼女に近づくな」

 扉一枚を隔てて交わされる激しい言い争いに来海は何事もなく終わるよう祈りつづけていく。
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