恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
「海外にいた頃は、よく一緒に仕事してたの」

 休憩中、エマは屈託のない笑顔でそう語った。

「ミツキ、昔から本当に優しくて、みんなに頼られる人だったわ」
「……そうなんですね」

 相槌を打ちながら来海は胸の奥がじわりと熱くなるのを感じていた。

 エマの言葉に敵意はなく、態度も柔らかくて好意的ですらある。

 それでも、さりげなく挟まれる自分だけが知っている過去や当たり前のように共有される時間の重みの数々には、無意識と言い切れない優越が滲んでいることを来海は敏感に感じ取ってしまう。

(私は……何を気にしてるんだろう)

 充輝とはあくまでも友達という立ち位置で、それ以上でもそれ以下でもない。

 何度もそう言い聞かせるのに充輝の隣にエマが立つたび、胸のざわめきは大きくなっていった。

 一方でエマは早い段階で察していた。

 充輝が来海に向ける視線や表情が他の誰とも違うことを。

 エマの知る充輝は、優しいのは誰に対してもそうだし、異性に好意的な目を向けられても気にも止めない人。

 そして充輝にとってエマは旧友であり、信頼する同僚――それ以上でもそれ以下でもない。

 その曖昧な立場が苦しくても、どんな形であれ充輝の一番近くにいられることがエマの支えで、もしかしたらいつかは自分に気持ちが向くかもしないと思っていた。

 けれど、日本には自分よりも近く深いところまで踏み込める女性がいる。

 その事実が胸を鋭く刺し、競争心と抑えきれない嫉妬心がエマの中で静かに膨らんでいく。

(このまま、引き下がるなんて……できない)

 そう思った瞬間からエマの態度は少しずつ変わり始めていった。
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