恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
「……そっか」

 短くそう返した充輝は伏せていた視線を上げた。

「きっと俺が……知らず知らずのうちに勘違いさせるようなことをしていたのかもしれないな」

 その言葉に、来海の胸がきゅっと締め付けられる。

「……私ね、金曜日、居酒屋で見ちゃったの」
「見たって、何を?」
「私がお手洗いに立った時、エマさんと二人で話していたでしょ? その時、エマさんが羽柴くんに身を寄せていたところを」

 一瞬、充輝の息が詰まった。

「…………っあれは――」
「分かってる。羽柴くんは、ちゃんと距離を取ろうとしてたものね」

 来海はそう続けながら視線を落とす。

「でも……エマさんが羽柴くんのことを好きなんだって、あの時によく分かったの。だから、私はあの場に居たくなくて……逃げるみたいに先に帰った」

 小さく息を吸い、言葉を絞り出す。

「正直ね、噂を聞いた時、すごく後悔したの。帰らなければ、あんな噂が流れることもなかったのかなって」
「向坂さん……」
「エマさんは、とても素敵な人だと思う。羽柴くんと同じでシステムのこともよく分かってるし……仕事のパートナーとしても、きっと申し分ないんだろうなって」

 充輝は首を横に振り、迷いなく言い切った。

「確かに、同じ課にいたから仕事面では分かり合えるかもしれない。でも、それだけだ」
「…………」
「俺にとってエマは、あくまで同僚だ。異性として特別な感情を抱いたことはないし、これから先もない」

 そして、まっすぐに来海を見つめる。

「俺が異性に特別な感情を向けるのは――向坂さんにだけだよ」
「…………っ」

 逃げ場のないほど真摯な眼差しと迷いのない言葉に、来海の胸が強く打ち鳴らされた。
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