恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
 充輝がエマと食事に向かってから、来海の心はずっと落ち着かないままだった。

「はっきり言う」

 そう言っていた充輝の言葉を信じたいけれど、ただ待つだけの時間は不安ばかりを膨らませていく。

 どうしても気持ちを抑えきれなくなった来海は二人が会っている店のすぐ側にあるカフェに入った。

 窓際の席に座り、何度も視線を店の出入口へ向けていた、その時だった。

 勢いよく扉が開き、エマが一人で店を出て行く姿が目に入った瞬間、胸が強く跳ねる。

 来海は無意識にテーブルの上のスマートフォンを握りしめた時、タイミング良くスマートフォンが震え出し、画面に表示された名前を見て来海は小さく息を呑んだ。

「――もしもし」
『……今から、会えないかな?』

 少し躊躇ってから来海は正直に答える。

「……実は今、羽柴くんたちが居たお店のすぐ側にあるカフェにいるの」
『え?』
「……その……どうしても……気になって……」

 一瞬の沈黙のあと、充輝の声が柔らかく返ってくる。

『そっか。それじゃあ、今そっちに行くよ』
「ううん、いいの。お店の中だと落ち着かないし……外で話そう? 私もすぐ出るから」
『……分かった』

 短い通話を終えた来海は席を立つと伝票を手にレジへ向かい会計を済ませ、深呼吸を一つしてから店の外へ出た。

 その頃、店を飛び出したエマは人の波に紛れるようにして歩き続けていた。

 エマは分かっていた。

 充輝の視線が自分には向いていないことも、恋愛対象として見られていないことも、来海に気があることも。

 それでも、これまで過ごしてきた時間は自分の方が長い訳で、想いを伝えれば何かが変わるかもしれない――そう信じて勇気を振り絞った。

 けれど、充輝の心が動くことはなかった。

 人混みを抜け、人気のない通りに差し掛かったところでエマは立ち止まる。

 そして唇を強く噛みしめ、震える声で呟いた。

「……どうして、私を選んでくれないの……」

 頭では分かっている、どうにもならないことだと。

 それでも感情は簡単には追いつかず、視界が滲み涙がこぼれ落ちていく。

「……こんなに、好きなのに……っ」

 どれほど想いを募らせても、どれほど悲しんでも、充輝の気持ちが自分に向くことはない。

 その事実だけが、冷たくエマの胸に突き刺さっていた。
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