恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
「え……?」

 来海の小さな呟きが耳に届いた瞬間、充輝の思考はピタリと止まった。

 来海は一度視線を落とし、そのまま言葉を続けていく。

「待ってる間……ずっと不安だったの。羽柴くんの気持ちが、エマさんの方へ向いちゃうんじゃないかって……」

 その言葉に充輝は息を呑む。

 来海はこれまで充輝に想いを伝えられても自分の中にある想いが恋愛感情なのかどうか分からず、友達という立場を選んで今日まできた。

 けれど、エマが現れ、彼女の充輝への想いを知ってしまってから、胸の奥に芽生えたその感情が嫉妬心であることに気付いていた。

「エマさんが羽柴くんとの思い出を語るたびに胸の奥が痛くなって、二人が笑い合っている光景を見るのは辛くて、嫌だなって思った時、私、羽柴くんを誰かに取られるのが嫌なんだって思ったの」

 そう口にしながら顔を上げた来海は真っ直ぐに充輝を見つめた。

「……だから、ちゃんと伝えなきゃって思ったの、自分の、素直な気持ちを」

 充輝は胸の奥から一気に溢れ上がる感情に言葉を失っていた。

 来海を好きだと気づいたあの日から、ずっと一途に想い続けてきた気持ちが、今、確かに報われてた。

(夢じゃ、ないんだよな……)

 ほんの一瞬、そんな不安がよぎった次の瞬間、充輝の身体は自然と動いていた。

 これが夢で無いことを確かめたくて、そっと腕を伸ばすと、来海の身体を自身の胸元へ引き寄せ抱き締めた。

「…………っ」

 突然のことに来海は小さく息を呑んだものの、拒むことはなかった。

 充輝の胸に頬が触れて伝わってくるその鼓動に、強張っていた心がゆっくりと解けていく。

 そして二人は言葉を交わさず、ただ互いの温もりを確かめ合っていた。

 暫くして、充輝は腕の力を緩めると、そっと来海の顔を覗き込む。

 その瞬間視線が絡み、来海は恥ずかしそうに視線を彷徨わせた。

 そんな来海の仕草を愛おしく思った充輝は微かに微笑むと、そっと彼女の頬に手を添える。

 充輝の指先がなぞるように滑ると、その感触に来海は小さく身体を震わせた。

 距離が縮まるたびに来海の胸は高鳴り、耐えきれずにそっと瞳を閉じたその刹那、充輝は躊躇うことなく来海の唇に自分の唇を重ね合わせていった。
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