恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
 唇が離れたのは、ほんの一瞬だった。

 来海が小さく息を吸ったその隙を逃さぬよう、充輝は再び彼女との距離を詰めた。

 まるで逃げ道を塞ぐように腕を回され、背中越しに伝わる体温に来海の思考はゆっくりと溶けていく。

「そんな顔されたら……我慢出来なくなる」
「……羽柴、くん……」

 外だという意識はあったものの、それでも、目の前にいる愛おしい存在を前に充輝の理性は簡単に揺らいでしまう。

 もう一度だけ——そう自分に言い聞かせるように今度は先程よりも深く、確かめ合うように唇を重ねていく。

「……っん……」

 深まる口付けに来海の吐息が零れ、無意識に伸びた指先が充輝の胸元を掴んだ。

 その小さな仕草一つで充輝の心は大きく揺さぶられる。

「……そんな風に掴まれたら、余計離れがたくなるんだけど?」

 囁かれた言葉に来海の頬が熱を帯び、その表情を見た瞬間、充輝の腕に自然と力がこもった。

「……向坂さん……」

 抑えきれないその想いによって再び重ねられたキスは更に深く激しく、互いの鼓動がはっきりと伝わるものだった。

 角度を変えながら繰り返される口付けに、二人の呼吸は次第に乱れていく。

「……はぁ……」

 やがて唇が離れて息を整える来海を見て、充輝は申し訳なさそうに眉を下げた。

「……ごめん。少し、強引過ぎた……」

 その言葉に来海は恥ずかしそうに視線を落としながら首を小さく振る。

「……ううん。嫌じゃなかったし……嬉しかった、から」

 そんな来海の一言に充輝の表情がふっと緩んだ。

「そっか……良かった」

 安堵と愛しさを滲ませながら充輝は再び来海を抱き寄せる。

「これからは絶対に、不安にさせるようなことはしないから」
「うん……信じてる」

 その言葉と温もりに来海の胸は静かに満たされていき、二人の距離は更に縮まっていくのだった。
< 47 / 103 >

この作品をシェア

pagetop