恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
「あの日、ミツキからはっきり想いを聞かされて、辛かった。納得出来なくて……サキサカさんには、何かしてやりたいくらい、苛立ちが抑えきれなかった。でも、そんなことをしてもミツキの心が私に向くことはないって分かったし、何よりも、ミツキに嫌われたくはないから……今日まで話すこともしてこなかった……」

 一瞬だけ唇を噛みしめ、エマは更に続けていく。

「ミツキ、今までありがとう。一緒に居た時間は、楽しかったし、私の中で、これからもずっと、大切な思い出の一つよ」
「……俺の方こそ、ありがとう。俺も、エマと過ごした日々は楽しかった。沢山助けられたし、本当に感謝してる」

 充輝のその言葉に少しだけ笑みを浮かべたエマ。

「嬉しい。そこだけは、同じ気持ちだったって、分かって。ミツキ、幸せになってね」

 そして視線を来海へと向け、静かに告げた。

「……ミツキを悲しませたら……絶対に許さないから」

 エマの言葉に来海は深く頷いた。

「……はい」

 そして充輝も真剣な眼差しでエマを見つめ、

「ありがとう。エマ……その気持ち、忘れないから。エマも、幸せになってね」

 感謝と別れの言葉を口にした。
 
 エマはそれ以上何も言わず二人に背を向けると振り返ることなく歩き出し、その背中はやがて人混みに溶けていく。

 エマの姿が完全に見えなくなるまで二人はその場を動けずにいた。

 やがて、来海の指先に充輝の手がそっと触れ、確かめるように絡まる。

 罪悪感と感謝、そして託された想い。
 
 その全てを胸に抱きながら、二人は無言のまま同じ方向へと歩き出していった。
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