恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
 二人は交際を始めてから、仕事終わりに食事へ行ったり、来海を送った流れで部屋に上がったり、休日に来海が料理を振る舞うからと彼女の部屋で過ごしたり──そんな時間は重ねてきたものの、互いにインドア派なこともあって特別どこかへ出掛ける機会はなかった。

 そんな二人が付き合ってから初めて「デートをしよう」と決めた週末。

 最初に訪れたのは映画館だった。

 公開されたばかりの話題作ということもあって館内は人で溢れ、二人が並んで座れる席は端の二人席のみ。

 そこへ決めて並んで腰を下ろすと、座席の狭さもあって上映前から隣にいる互いの存在を強く意識してしまう。

(……映画館の席って、こんなに近かったっけ)

 平然を装ってはいるものの普段とは違う距離感に、二人ともどこか落ち着かない。

 そして上映が始まってからも、笑う場面が重なったり、息をのむ瞬間が同時だったりするたびに、気づけば肩や腕の距離が少しずつ縮まっていく。

 映画を観終えたあと、特にお腹も空いていなかったこともあって、充輝はドライブすることを提案し、来海はそれに頷いた。

 助手席に座った来海は行き先を尋ねることもなく、ただ充輝の運転に身を委ねる。

 窓の外を流れていく景色と車内に静かに流れる音楽。

 会話は途切れ途切れだったものの不思議と気まずさはなく、むしろ、その沈黙さえも二人の距離を確かめ合う時間のように感じられる。

 暫くして通りがかった海岸は秋も終わりに近づいた海は人影もまばらで、折角だからと少し外へ出た二人は潮風を感じながら並んで景色を眺め、慣れてきたのか自然と会話も弾んで穏やかな時間が流れていった。

 そして、日がすっかり落ちた頃、充輝が案内したのは落ち着いた雰囲気の小さなレストランだった。
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