恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
 充輝が住んでいるのは市街地に建つ十階建てマンション。

 駐車場に車を停め、エントランスから建物内に入った二人はエレベーターへ乗り込んだ。

 最上階に到着して扉が開き、無機質な廊下を進んで自室の前に立った充輝は鍵を開けてドアノブに手を掛けようとしたところで振り返った。

「……本当に、いいの?」

 ここまで来て引き返すつもりが互いにないことは分かっている。

 それでも、来海の気持ちを置き去りにすることだけはしたくなかった充輝は確認するように問い掛けた。

 その不器用な優しさが伝わり、来海は思わず小さく笑う。

「……うん。大丈夫」

 迷いのない言葉に充輝はそっと頷き、ドアを開けた。

 部屋に入ると充輝は自然な仕草で来海の手を取り、そのままリビングへ導いていく。

 そして、来海がバッグを下ろすより先に、充輝は自身の方へ強く抱き寄せた。

「……ッ」

 抱き寄せた瞬間、驚く来海の唇に自身の唇を重ねた充輝。

 何度も繰り返されるその口付けに来海の指先からバッグが滑って床に落ちる音が響いたけれど、二人の意識はもう互いにしか向いていなかった。

「……っ、はぁ、……」

 激しい口付けに、来海の喉から小さな吐息が零れると、それに気付いた充輝は名残惜しそうに唇を離した。

「……ごめん」

 そう言いながらも離れることはせず、荒い呼吸のまま見上げてくる来海の表情は少し恥ずかしそう。

「……羽柴、くん……その……せめて、シャワー、浴びてから……」

 その提案は一日の終わりを思えばもっともだと思うけれど充輝は、

「分かってる。でも……もう離したくないし、一秒だって待てないんだ」

 そう囁いて再び来海の手を取ると、そのまま寝室へと導き、

「……っあ、」

 まるで壊れ物を扱うかのように優しく来海をベッドの上へと横たえた充輝はその上に跨ると、真剣な瞳で見下ろした。
< 53 / 103 >

この作品をシェア

pagetop