恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
 何度か角度を変えてキスを交わした後、充輝は唇を離すと周囲を気にするように一度だけ視線を巡らせた。

「……ここじゃ、さすがにまずいよな……」

 そう呟いた直後、充輝は来海の手首を取って扉を開けると、そのまま部屋の中へと導いていく。

 驚きつつも体勢を崩さずに踏み込んだ来海の背後で玄関扉が静かに閉まった。

 その音を合図にするように充輝の腕が伸び、逃げ場を塞ぐように来海をドアへと押し付ける。

「充輝、ちょっ――」

 抗議になりきらない声は再び重ねられた唇に遮られてしまう。

「……ん、……はぁ……」

 先ほどよりも深く、躊躇いのない口付け。

「……っんん、……っはぁ、」

 唇が離れてはまた求め合い、来海が小さく息を漏らせば充輝は更に口付けを深めていく。

 背中に回された腕には力がこもり、まるで「逃がさない」と告げるかのようだった。

 やがて長い口付けが終わっても充輝は来海から離れず、

「……まだ、足りない」

 その呟きに来海は思わず視線を逸らすと、耳まで赤く染めながら小さく抗議するように言った。

「そ、そんな顔で言わないで……ずるいよ」

 来海のその反応を前にした充輝は愛おしそうに微笑むと、彼女の頬にそっと触れた。

「部屋、上がってもいい?」

 来海の控えめな頷きを受け取ると、二人は靴を脱いで部屋へと上がる。

 来海がバッグを置いて上着を脱いだその瞬間、再び強く抱き寄せられた。

「え、ちょっ……!」

 そして、声を上げる間もなく来海の身体は宙に浮き、抱き上げられたまま寝室へと運ばれていき、ベッドの上に優しく降ろされた直後、充輝は覆い被さるように来海の上に跨ると、逃がさないと言わんばかりの視線で彼女を見下ろしていた。
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