恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
 見下ろす充輝の視線は熱を帯びていて、指先が来海の頬に触れると、そのまま輪郭をなぞるように首筋へとゆっくり滑り落ちていく。

 擽ったさに耐えきれず、来海は小さく身を捩りながら声を漏らす。

「……っ、ん」

 そんな来海の姿に充輝の表情がふっと緩む。

 その反応すらも愛おしいのだと言わんばかりに充輝はそっと来海の額へ唇を落とした。

 唇ではなく額――それが余計に来海の胸の鼓動を速めていく。

 触れられるよりも大切に扱われているような気持ちになるからだ。

 二人が初めて身体を重ねたあの日から、互いの距離は更に縮まった。

 自制心という言葉がどこか遠くへ行ってしまったかのように、休日は勿論平日の夜でさえ自然と同じ時間を共有することが増えていく。

 好きだから触れたい、好きだから近くにいたいという感情はごく自然なことで、どちらか一方だけの想いではなかった。

 けれど、想いが同じであるからこそ胸の内に生まれる迷いもまた似通っていた。

 充輝は自分が求め過ぎてはいないかという不安が常について回る。

 触れたいという衝動に任せてばかりで来海を困らせていないだろうかという不安が。

 一方来海は流されるまま受け入れてばかりでいいのだろうかと悩む。

 自分の気持ちをきちんと伝えられているのか、彼に甘え過ぎてはいないかという悩みが。

 互いを大切に思うからこその不安や悩みであることは分かっているものの、それを口に出さなければ伝わらないことがあるのも二人は気づいていた。

 充輝は躊躇いながらも言葉を探し、額を軽く合わせたままポツリと零すように言った。

「――ねえ、来海」
「……なに?」
「毎回さ、こういうのって……やっぱり、嫌だったりする?」

 彼のその言葉に来海は瞬きをすると、その問いの意味を測りかねたように充輝の顔を見上げる。

「え?」
「その……俺は来海のことが好きだから触れていたいし、できるなら一秒だって離れたくない。でも最近、二人きりになると、こういうことばっかりになるだろ? そういうのを、来海はどう思ってるのかって、気になって」

 言葉を選びながら、どこか自信なさげに視線を逸らす充輝に来海は目を見開いた。

「……そんなこと、思ってたの?」
「思うよ。流石にがっつき過ぎかなとか、少しは自重したほうがいいのかなとか」

 自嘲気味に笑う充輝の声は思った以上に弱々しくて胸がきゅっと締め付けられるのと同時に、同じだけの不安や迷いが充輝の中にもあったのだと気付いた来海は彼の背に腕を回して包み込むように抱き締めた。
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