恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
 抱き締められた瞬間、充輝は一瞬だけ息を止めた。

 不意打ちのような温もりに驚いたのもあるが、それ以上に自分が抱えていた不安を見透かされたような気がしたからだ。

「来海……?」

 充輝の背に回した腕に少しだけ力を込めた来海はポツリと言葉を紡いでいく。

「嫌なわけ、ないでしょ……むしろ、その……私も、同じこと思ってたし」
「同じ?」
「うん……その、ね、いつも受け入れてばっかりで、自分から言えてないんじゃないかとか、充輝ばかりにさせてる気がして……」

 言葉にするのが恥ずかしいのか最後の方はほとんど聞き取れないほど小さくなる。

 それでも十分すぎる程に来海の想いが伝わった充輝は思わず苦笑する。

「……そっか、同じこと考えてたんだな、俺たち」

 そして充輝は来海の肩に手を置くと少しだけ身体を離した。

 視線を合わせると、互いの表情がよく見える距離になる。

 来海の頬はほんのりと赤く、けれど瞳は真っ直ぐだった。

「俺ばっかり求めてるんじゃないかって、ずっと気になってたから、安心した」
「私も安心したし、これからは、少しくらい積極的でも良いかなって思えたよ」

 即答に近いその言葉に、充輝は目を瞬かせる。

「……それ、反則」
「何が?」
「そんな顔でそんなこと言われたら、嬉しいってこと」
「そっか」

 互いに不安を抱えていたのに、口に出せばこんなにも簡単に重なってしまう。

 言葉にすることの大切さを二人は改めて実感していた。

「じゃあさ」

 充輝が再び来海の額に触れる。

「これからは、嫌なことや不安なこと、して欲しいことはきちんと言って。遠慮とかなしで」
「それは充輝もだよ」
「俺?」
「私だって、言ってもらえないと分からないから」

 そんな来海の真剣な声に充輝はふっと優しく笑うと、それにつられた来海も優しく微笑みを返して二人は静かに笑い合った。
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