恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
 順調に愛を深めていく中、十二月に入り、関西支社から一人の社員が異動してきた。

真白(ましろ) 大輔(だいすけ)です。よろしくお願いします」

 物腰は柔らかく、来海や充輝より二歳上の大輔は関西支社きってのやり手として名が通っており、整った容姿もあって社内での評価は高かった。

 充輝と同じシステム課に配属されると、評判通りの仕事ぶりに女性社員たちの視線は瞬く間に大輔へ集まっていく。

 その様子を眺めながら充輝はかつての自分を見ているような、どこか居心地の悪い気持ちになっていた。

 数日後の昼休み、二人きりで外食をしていた来海が、ふと思い出したように口を開く。

「噂の彼の人気、凄いね」
「本当に。意見もはっきり言えるし仕事も出来るし、それはいいんだけど……女子社員たちからの人気がね」

 充輝は箸を止め、軽くため息をつく。

「あはは、更衣室でも真白さんの話題で持ちきりだよ」
「まあ、真白さん本人は気にしてないみたいだけど、取り合う周りの殺気が凄くてさ……」
「何だか充輝の時を思い出すな」
「俺? そんなに酷かった?」
「そりゃあね。人気だったから、私は大変だったよ?」
「……何か、ごめん」
「ふふ。嘘。気にしてないよ。それより、真白さんとパートナーになったんでしょ?」
「まあね。年齢も近いし適任だろうって半ば強制。けど、俺より年上だし本当に仕事出来るから、ちょっと自信なくす」
「充輝だって負けてないでしょ。自信持ってよ。大変だろうけど、頑張って」
「ありがとう」

 互いに笑い合い、束の間の穏やかな時間を過ごした二人はそのまま職場へ戻る。

 玄関をくぐったところで、背後から声が飛んで来た。

「羽柴さん!」

 振り返ると、大輔が駆け寄ってくる。

「資料、さっき確認しました。補足も完璧で助かりました」
「そうですか、お役に立てたなら良かったです」

 短いやり取りの後、大輔の視線が自然と充輝の隣へ移る。

「あの……?」
「ああ、こっちは総務課の向坂さん」
「向坂です。初めまして」

 来海が軽く会釈すると、大輔もまた丁寧に頭を下げた。

「真白です。羽柴さんにはお世話になってます」
「お話はよく聞いてますよ。とても優秀な方だって」
「いやいや、そんな。全然ですよ」

 謙遜しながらも、どこか嬉しそうに頬を緩める大輔。

 一瞬だけ来海を見つめたその視線を、充輝は見逃さなかった。
< 70 / 103 >

この作品をシェア

pagetop