恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
 三人は駅前の通りを抜けると、その近くにある居酒屋へと入った。

 週末の店内は活気に満ち、客たちの笑い声が入り混じっている。

 店員に個室へ案内されると、充輝はごく自然な流れで来海の隣に腰を下ろす。

 向かいに座った大輔はその一連の流れを一瞬だけ目で追いつつも、特に何も言わずに腰を下ろした。

「羽柴さんと向坂さんって、長い付き合いなんですか?」

 注文を決めながら大輔は軽い調子で二人の付き合いの長さを尋ねた。

「いえ、そんなに長くは……部署も違いますし」

 来海の言葉に補足する形で充輝が続けた。

「今年の春に俺が海外支社から戻って来て関わるようになったんですよ」
「へえ……春から」

 頷きながら大輔は二人を見比べる。

「でも、もっと前から知り合いだったみたいに見えますね。空気が合ってるというか」
「そうですかね?」
「ええ。でも、部署が違うのに話す機会ってあるものなんですね」
「最初はほとんどなかったですよ」
「俺が、用事作って話しかけてただけです」

 充輝が苦笑混じりに答えると、大輔は「そうだったんですね」と短く頷いた。

 少しずつ打ち解けてきたことから、やがて話題は休日の過ごし方へ移っていく。

「向坂さんって、休日は何してるんですか?」
「え? そうですね……インドア派なので、家でまったり過ごしてます」
「羽柴さんも?」
「そうですね、俺も彼女と似たような感じです」

 さらりと口にされた言葉に大輔は一瞬だけ視線を動かしつつもそれ以上は踏み込まず、「まったり過ごすの、いいですよね」と笑った。
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