恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
「あ、すみません」

 画面を確認すると職場の先輩の名前が表示されていて無視するわけにもいかない充輝は、

「ちょっと外、出てきます。すぐ戻ります」

 立ち上がりながら一瞬だけ二人を見る。

 正直、二人きりにすることへの小さな不安はあるものの、電話を折り返さないわけにもいかない充輝は襖を開けて店の外へ出ていった。

 残された来海と大輔の間には暫く沈黙が訪れたものの、

「向坂さん、強いんですね」

 先に口を開いたのは大輔だった。

「え?」
「お酒。顔、全然赤くならないですし。自分はちょっと回ってきたかもしれません」

 困ったように笑いながら、こめかみに手を当てる。

「大丈夫ですか?」
「はい……たぶん」

 そう言いながらも大輔の視線は真っ直ぐ来海を捉えていた。

「……向坂さんって、近くで見ると本当に綺麗ですね」
「え……?」

 不意の言葉に来海の動きが止まる。

「昼間初めてお会いした時から思ってたんですけど、なかなか言うタイミングなくて」

 ふっと笑い、僅かに身を乗り出す大輔。

 テーブル越しとはいえ、二人の距離は先ほどより明らかに近くなる。

「羽柴さんが自分から話しかけたくなるのも分かる気がします」
「……そんなこと」

 どう返していいか分からない来海は視線を彷徨わせるも、大輔はそのまま言葉を続けていく。

「もし、俺が羽柴さんより先に話しかけてたら、今頃どうなってたかな」
「え……?」
「向坂さんって、どこか放っておけない感じがありますよね。つい気になってしまうというか。だから俺だったらきっと――積極的にアピールしてしまいますね」

 大輔の言葉に胸の奥が落ち着かない来海はどうにか話を逸らそうと試みる。

「……その、だいぶ酔ってますよね、真白さん」

 話を逸らしながら、どうにか距離を取ろうとすると大輔は肩を竦めながら言った。

「そうかもしれませんね。でも、酔ってる時の方が本音って出るじゃないですか。だから、今の言葉に嘘はないですよ」
「…………っ」

 その言葉に来海が小さく息を飲んだその時、襖が静かに開いていく。
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