恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
「すみませんでした」

 戻ってきた充輝の目に飛び込んできたのは、やけに距離の近い二人の姿とどこか困ったように笑う来海の表情で、視線は自然と大輔へ向かう。

「……真白さん、酔ってます?」
「ええ、少しだけ」
「そうですか。それじゃあ水、頼みましょうか」
「お気遣いどうも」

 露骨では無いものの、まるで牽制するかのように充輝は二人の間へ静かに割って入る。

 そんな三人の間に流れる空気は明らかな変化を見せていた。

 それから暫くして、

「そろそろお開きにしましょうか」

 そう大輔が声を上げる。

「そうですね」

 それに二人も同調したことで、張り詰めていた空気は少しずつ消えていく。

 会計を済ませて店を出ると、大輔は来海へ向き直り、

「向坂さん、家はどちらの方角ですか?」

 来海の自宅の方角を尋ねた瞬間、充輝の眉間がピクリと動く。

「あ、えっと、駅から西に三駅程の距離……です」
「あ、同じ方角ですね。よければ途中まで――」

 大輔が言いかけた言葉を遮るように充輝が一歩前へ出た。

「真白さん、すみません。実は向坂さんと俺、付き合っているんで……その必要は無いです」

 来海と交際している事実を大輔に告げると、彼は僅かに目を丸くした後で、ふっと肩の力を抜いて笑った。

「やっぱり、そうだったんですね。実はそうなのかなと思いました。お似合いですからね、お二人とも」

 そして大輔は軽く頭を下げ、

「お邪魔してしまってすみませんでした。それでは、また週明けに」

 それだけ言うと、あっさり背を向けて人混みの中へ消えていく。

(分かってて来海に迫るような態度をしてたってこと……だよな)

 大輔の言動は充輝の心にますます不安を残していき、小さく息を吐くと来海へ視線を向けた。
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