恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
「さっき真白さんと二人の時、何かされたり言われたりしたの?」
「何もされて無いよ……でも、ね、」

 来海は言葉を選ぶように視線を泳がせながら声を少し落として言葉を続けた。

「気のせいじゃなければ、その……好意を持たれてる……感じがした、かな」

 その一言に充輝の胸がざわついた。

(有り得ねぇだろ。俺らのことに気付いてて来海に言い寄るとか……)

 どうにもならない感情が込み上げて指先に力が入ると、次の瞬間、充輝は来海の手を取って歩き出していた。

「充輝? どこ行くの?」

 問いかけに答えなければ足を止めることもしない充輝は、そのまま駅とは逆の通りへと向かって行く。

「ねぇ、充輝?」

 その足取りは迷いがなく、来海が再度問いかけるように名前を呼ぶと、

「――今すぐ来海のこと抱きたいから、電車には乗らない」

 低い声で答えた充輝に、それを聞いた来海は息を呑み、頬を赤く染めていく。

 そして手を引かれるまま来海がふと顔を上げると、いつの間にかネオンが眩しく灯る通りへと差しかかるも充輝は迷う様子もなく、すぐ側にあった建物の前でやって来ると次の瞬間、二人を迎え入れるように自動ドアが静かに開いていった。

 そのまま吸い込まれるようにロビーに足を踏み入れた瞬間、外の喧騒が一気に遠のいていく。

 充輝は壁際のタッチパネルの前に立つと、ほとんど迷いもなく画面を操作していくので、流れていく部屋の写真はどれも一瞬しか目に入らない。

 部屋が決まるり、「行こう」という短い言葉と共に充輝が繋いでいた手を強く握り締めてきたことで来海はコクリと頷きながらその手をギュッと握り返して二人はエレベーターへ乗り込んだ。
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