恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
 一言も話さない充輝を前に来海の鼓動は早鐘を打つ中、エレベーターが上昇する振動が足元から伝わり、数字が一つずつ増えていくのをただボーッと見つめていく。

(どうしよう……充輝の顔、まともに見られない……)

 戸惑い視線を落とす来海の隣で充輝は正面を見据えていた。

 頭の中では、先ほどの大輔の笑顔と来海の言葉が何度も思い起こされる。

(分かってる。来海が俺以外を見るわけないって。でも……)

 チン、と軽い音が鳴って扉が開いくと、一旦考えることを止めた充輝は来海と共に廊下を進み、部屋のドアにカードキーをかざす。

 電子音と共にドアが開くと二人は室内へ足を踏み入れて行き、背後で扉が閉まる音が妙に大きく響いていた。

 その瞬間だった。

 充輝は来海の腕を引いて壁へ追い込むと、逃げ場を失った来海の呼吸が一瞬止まった。

「充輝……?」

 問い掛けるような呼び掛けには答えず、ただひたすら来海を見つめ、戸惑い揺れる彼女の瞳や少し不安そうな表情を前に堪えきれなくなった充輝は顔を近づけ――静かに唇を重ねていった。

 その口付けは強引で互いの息が重なり、次第に熱を帯びていく。

(……安心、したいだけなんだ)

 そんな風に思う充輝の腕には自然と力がこもり、どこか余裕の無さを感じていた来海は目を閉じると彼に身を委ねていく。

「……ッん、……はぁっ、……」

 角度を変えながら何度となく与えられた強引な口付けに、とうとう息が続かなくなった来海の膝が小さく震えていた。

「……っ、み、つき……」

 呼吸が乱れる中、ポツリと呟くように名前を口にした来海を前に充輝が我に返ると、崩れ落ちそうになる彼女の身体を支えるように抱き留めた。
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