恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
嵐の予兆
 週明けの社内は慌ただしく、人の往来もいつもより多い。

 そんな中、来海は資料室から抱えてきたダンボールを胸に、総務課へ向かって廊下を歩いていた。

「向坂さん」

 そこへ不意に声を掛けられて足を止め振り向くと、偶然通りがかった大輔の姿があった。

「あ、真白さん」

 週末に三人で食事をしたことを思い出したのか、来海の表情にはどこか戸惑いが浮かぶ。

「先日はどうも」
「いえ、こちらこそ」
「重そうですね。手伝いましょうか?」
「いえ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます」

 互いに軽く会釈を交わし、短いやり取りが続く。

 すると、その空気を切り裂くように足早な気配が近づいてきた。

 それは姿の見えない大輔を探していた充輝で、視界に入ったのは並んで立つ来海と大輔の姿。

 当然、胸の奥がざわつき冷静じゃいられなくなる。

「真白さん」

 怒りを押し殺した声音で大輔を呼ぶと、二人の間へ滑り込むように立った。

「探しましたよ。先輩を待たせていますから、早く来てください」
「ああ、すみません。部長に頼まれてこれを総務課へ持って行く途中でして」

 大輔は手にしていた資料を軽く掲げて見せると、それを見た来海が口を開いた。

「あ、それなら私が預かりますよ」

 けれど、その言葉よりも早く充輝の手が伸びた。

「真白さんは先に戻っていてください。俺が責任持って届けますから」

 資料を受け取ると同時に、来海が抱えていたダンボールまでひょいと持ち上げる。

「充輝?」
「これ、届けに行くついでに運ぶよ」

 あまりに自然な動作に一瞬目を丸くした来海だったが、すぐに事情を察したのか申し訳なさと嬉しさの入り混じった笑みを浮かべる。

「ありがとう」

 二人は並んで廊下を歩き出し、その背中を見送りながら大輔は小さく息を吐いた。

 そして、僅かに不満を滲ませたまま踵を返してシステム課のフロアへと戻っていった。
< 81 / 100 >

この作品をシェア

pagetop