恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
あれから、数日後。
「聞いた? 羽柴くん、海外支社に行くらしいよ」
「しかも向こうで結婚が決まってるとか……」
昼の休憩室に、どこから流れたのか正式に発表もされていない話が広がっていく。
それを耳にした充輝はデスクで小さく息を吐いた。
こういった噂話は止めようのない流れだと分かっていても、内容が内容なだけに胸の奥に重たいものが沈んでいた。
そして当然、その話は来海の耳にも届いていた。
(……社長が誰かに言わせてるのかな……。充輝は何度も話してるみたいだけど、やっぱり聞いてもらえないんだろうな……)
事情を知っているからこそ、もどかしい。
力になりたいのに、立場上何も出来ない自分が歯痒かった。
そんなある日の昼休み、充輝が取引先へ出掛けているタイミングを見計らったかのように、一人で休憩していた来海へ大輔が歩み寄ってくる。
「向坂さん、大丈夫?」
心配そうに眉を下げてはいるが、その目の奥には別の色が滲んでいるようにも見える。
「……真白さん」
「聞いたよ、羽柴さんの噂。海外に行くとか、結婚とか……」
探るような言い方に、来海は小さく首を横に振る。
「……私にも、詳しいことは分かりません」
本当は、ある程度の事情を知っているけれど、今は“噂”としてしか出回っていない以上、軽率な言葉は使えないと来海は敢えて知らないフリをする。
「そっか。でもさ……もし本当なら、向坂さんはどうするつもり?」
大輔はそう言いながら、さりげなく距離を詰めた。
「どう、と言われましても……」
「海外行きだけなら待てば済む話かもしれないけど、結婚が絡んでいるとなれば、そうはいかないよね?」
「…………っ」
突然投げかけられた来海の胸がざわついた。
(どうして、そんなことを言うの?)
心配する素振りを見せてはいるも、来海には大輔が充輝の海外行きの噂を“好機”と捉えているように感じられてしまう。
「俺で良ければ相談に乗るよ?」
「……お気遣い、ありがとうございます。でも、本当に大丈夫ですから」
柔らかく微笑みながらも、はっきりと距離を示す来海を前に、大輔は一瞬だけ目を細めたが、すぐに穏やかな表情を取り戻した。
「遠慮しなくていいのに。でも本当に困ったら、その時はいつでも頼ってくれて構わないから。それじゃあまた」
軽く会釈をして去って行く大輔を見送った来海の胸には更に不安が増えていった。
「聞いた? 羽柴くん、海外支社に行くらしいよ」
「しかも向こうで結婚が決まってるとか……」
昼の休憩室に、どこから流れたのか正式に発表もされていない話が広がっていく。
それを耳にした充輝はデスクで小さく息を吐いた。
こういった噂話は止めようのない流れだと分かっていても、内容が内容なだけに胸の奥に重たいものが沈んでいた。
そして当然、その話は来海の耳にも届いていた。
(……社長が誰かに言わせてるのかな……。充輝は何度も話してるみたいだけど、やっぱり聞いてもらえないんだろうな……)
事情を知っているからこそ、もどかしい。
力になりたいのに、立場上何も出来ない自分が歯痒かった。
そんなある日の昼休み、充輝が取引先へ出掛けているタイミングを見計らったかのように、一人で休憩していた来海へ大輔が歩み寄ってくる。
「向坂さん、大丈夫?」
心配そうに眉を下げてはいるが、その目の奥には別の色が滲んでいるようにも見える。
「……真白さん」
「聞いたよ、羽柴さんの噂。海外に行くとか、結婚とか……」
探るような言い方に、来海は小さく首を横に振る。
「……私にも、詳しいことは分かりません」
本当は、ある程度の事情を知っているけれど、今は“噂”としてしか出回っていない以上、軽率な言葉は使えないと来海は敢えて知らないフリをする。
「そっか。でもさ……もし本当なら、向坂さんはどうするつもり?」
大輔はそう言いながら、さりげなく距離を詰めた。
「どう、と言われましても……」
「海外行きだけなら待てば済む話かもしれないけど、結婚が絡んでいるとなれば、そうはいかないよね?」
「…………っ」
突然投げかけられた来海の胸がざわついた。
(どうして、そんなことを言うの?)
心配する素振りを見せてはいるも、来海には大輔が充輝の海外行きの噂を“好機”と捉えているように感じられてしまう。
「俺で良ければ相談に乗るよ?」
「……お気遣い、ありがとうございます。でも、本当に大丈夫ですから」
柔らかく微笑みながらも、はっきりと距離を示す来海を前に、大輔は一瞬だけ目を細めたが、すぐに穏やかな表情を取り戻した。
「遠慮しなくていいのに。でも本当に困ったら、その時はいつでも頼ってくれて構わないから。それじゃあまた」
軽く会釈をして去って行く大輔を見送った来海の胸には更に不安が増えていった。