恋に臆病な私と恋を知らなかった御曹司の距離が、ゼロになるまで
 食事をしながら、父親たちの間では業務に関する具体的な数字や展望が次々と交わされて話が進んでいく。

 充輝は箸を進めながらも会話に割って入ることは無く、既に進んでいる話をどう断るか頭を悩ませていた。

(……だいぶ、外堀は埋まってる……)

 やがて食事が終わり酒が進み始める頃には、父親たちの声も幾分和らいでいた。

「若い者同士でも話をするといい」

 そう言ったのは真帆の父親だった。

「はい。充輝さん、この料亭は中庭が見事なんですよ、よろしければご案内いたしますわ」

 控えめにそう告げた真帆に充輝は一瞬だけ父親を見るも、返ってきたのは無言の圧。

「……分かりました」

 空気を壊すことは許されないと、充輝は頷いて席を立ち、個室を出た二人は廊下を抜けて中庭へ向かって行く。

 月明かりに照らされた庭は静寂に包まれ、池の水面が淡く揺れていた。

 暫く無言が続いたあと、真帆がゆっくりと口を開く。

「実は……今回のお話を父から聞いて充輝さんのお写真を拝見した時からずっと、お会いしたいと思っておりました」

 真っ直ぐに向けられる気持ちと眼差しに戸惑う充輝。

「……充輝さんはどうお思いか分かりませんが、私は、このご縁を大切にしたいと思っております」

 真帆のはっきりとした告白に充輝の思考が一瞬止まる。

(……真帆さんを説得するのは、無理そうだ……。でも、このまま本音を伝えずにいるのも、違うよな……)

「……お気持ちは、ありがたいですが……」

 言葉を選びながらも、続きが出てこない。

 断れば会社の今後に影響が出るのは間違い無い。

 けれど、曖昧にすれば期待を持たせることになる。

 そんな迷いが充輝の胸を締め付ける。

「……急なお話で戸惑われるのも当然ですわ。でも、私はお待ちします。会社の為にも、悪いお話では無いと思いますから……」
「…………」

 夜風が吹き抜ける中、充輝は答えを出せぬまま立ち尽くしていた。
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