血の契りより、あなたを選ぶ

3:形見

 違和感は、すぐにあった。

 葬儀が終わり、
 人の流れが緩んだ瞬間、
 私は自然にポケットへ手を入れた。

 ——ない。

 煙草も、
 ライターも。

 胸が騒ぐ。
 だが、息は乱れなかった。

 鷹宮修司の形見だ。
 なくしていいものじゃない。
 ただ、それだけの話。

 記憶を巻き戻す。
 喫煙所。
 雨。
 低い声。

 置いてきた。

 結論は、すぐに出た。

 視線の先に、父の背中がある。
 組長としての立ち姿。
 隙のない距離。

 言わない。
 今、騒ぐ理由はない。

 修司なら、そうする。

 あの人はいつも、
 「守るために静かでいろ」と言った。

 ——持ち物は、持ち主より先に動く。

 修司の言葉が、はっきりと蘇る。

 私は、一度だけ深く息を吸った。
 そして、もう一度だけ、空のポケットを確かめる。

 確認は、それで終わりだ。

 失くした。
 なら、取り戻す。

 それだけ。

 あの男のことを思い出す。
 顔は知らない。
 けれど、裏の匂いは分かる。

 父の忠告も、覚えている。

『今の男を見るな』

 ——見るな、であって、
 避けろとは言われていない。

 違いは、大きい。

 私は、ゆっくりと視線を上げた。

 雨は止んでいる。
 地面はまだ濡れているが、足は取られない。

 焦りはない。
 覚悟はある。

 修司が命を使って守った私が、
 形見ひとつ取り戻せないで、どうする。

 必要なら、
 裏を踏む。

 必要なら、
 名も使う。

 ——ただし、今じゃない。

 私は、何事もなかった顔で歩き出した。

 静かに。
 確実に。

 鷹宮修司の名に、恥じないやり方で。
< 3 / 8 >

この作品をシェア

pagetop