旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜


 屋敷を出た二人は、並んで坂道を下っていった。丘の上からは、軍港の街と港湾が一望できる。
 暮れなずむ海は群青に沈み、停泊する艦船の甲板には次々と灯がともり始めていた。遠くで鳴る汽笛が夜の訪れを告げ、潮の匂いは歩を進めるごとに濃くなる。寄せては返す波音が、足元から胸の奥へと響いてくるようだった。

 しばし、二人の間に言葉はなかった。互いに口を開こうとしながらも、声にならない。
 そんな気まずい沈黙の中、レイモンドは隣を歩くソフィアの横顔を、何度も盗み見た。彼女は今、何を思っているのか。イシュのことか、それとも――。

 こんな状況だというのに、不意に「手を繋ぎたい」と思ってしまう自分に気づき、内心で叱責する。だが抑えきれない。彼女がただ隣にいるだけで、胸が締めつけられてどうしようもなかった。


 やがて、星が瞬き始める空の下で、レイモンドは足を止めた。
 潮風が二人の間を吹き抜け、ソフィアのドレスの裾を揺らす。

「……実は、知っているんだ。君と、イシュ・ヴァーレン卿の関係を」
「……っ」

 刹那、ソフィアが息を呑むのがわかった。月明かりに照らされた横顔が翳りを帯びる。
 レイモンドは視線を逸らさず、低く続けた。

「舞踏会の夜、あの男に言われたんだ。『今すぐ君と離縁しろ』と」
「――!」
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