旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜
ソフィアが誇らしげにベストを掲げると、レイモンドは歩み寄り、その「紫」の刺繍を見つめて目を細めた。彼は愛おしげにその刺繍を指先でなぞったが、すぐに視線をソフィアへと戻す。
「素晴らしい出来だ。……礼を言う、ソフィア。では、今日の作業はもう終わりだな?」
「そうですわね。あとは片付けだけ……」
「片付けか。――それは明日にしろ。今日はもう終いだ。部屋に行くぞ」
反論を許さない響き。
次の瞬間、ソフィアの視界がふわりと浮き上がった。
「きゃっ……! だ、旦那様?」
ソフィアは悲鳴を上げる。
レイモンドに、お姫様抱っこで抱え上げられていた。
……自分を抱きしめるレイモンドの身体が、熱い。
彼の平熱は自分より少し高く、いつまで経っても、ドキドキしてしまう。それに、彼の胸板から伝わる鼓動の音が大きくて……。
「……だ、旦那様、自分で……自分で歩けますわ」
「駄目だ。君の歩幅は小さいからな。この方が早い」
「で、でも……っ」
「何だ? 使用人に見られることを心配しているなら、何も問題ない。二階にいた使用人は全員下がらせたからな」
「……っ」
レイモンドは断言すると、そのまま作業部屋を出て、ソフィアを腕に抱えたまま薄暗い廊下を進む。そして寝室の中に入ると、柔らかな寝台の上にソフィアを降ろした。
「あ……ありがとう、ございます」
「――フッ。礼を言っている場合か? 俺がどうして君をわざわざ抱えて運んだか、わからないわけじゃないだろう?」
「……っ」
レイモンドの両手が、ソフィアの身体を囲い込む。――ギシ、とベッドが軋んだ。
月明かりを背負う大きな体が、ソフィアの視界を覆い隠す。
「……ソフィア」
「…………はい、旦那様」