旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜
至近距離で見つめてくる彼の瞳には、深い情愛と、隠しきれない熱が宿っている。
ソフィアは理解していた。
ここのところ、レイモンドは仕事が忙しく、就寝の時間が合わなかった。だが、今日はそれが一区切りつきそうだったため、ソフィアは敢えて作業を作り、レイモンドの仕事が終わるのを待っていたのだ。
「……いいだろう?」
不器用で屈強な軍人の、傲慢で甘い通告。長い夜を告げる、開始の合図。
ソフィアは頬を染めながらも、躊躇いもなくレイモンドの首に手を回し、こくりと頷いた。
「はい、旦那様。……そのために、待っていたのですから」
「――っ」
刹那、レイモンドの喉が、ごくりと、音を鳴らす。
今の自分の発言を、二ヵ月前の自分が聞いたら発狂するに違いない。
過去の自分は、貞淑な、淑女の仮面を被っていた。それが今は、まるで娼婦のように、男を誘っているのだから。
「……君はいつから、そんなに積極的になったんだ? 俺が知らなかっただけか?」
「ふふ。旦那様こそ、わたしに秘密にしていることの一つや二つ、あるのではなくって?」
夫の顔を引き寄せるように、ぐいっと腕に力を込め、彼の青い瞳を覗き込む。
すると彼は、愉悦にも似た笑みを浮かべた。
「――フ。どうだろうな。俺に秘密があるかどうか、暴いてみるか? 君になら、全てを晒していい。その代わり、君の全てを俺に捧げてもらうが」
「もう、全てを捧げておりますわよ?」
「それはどうかな。君はまだ、自分のことを何もわかっていない。……勿論、俺のこともな」
「……? それは、どういう……」
「君のいいところを、探り当ててやろう。君が『やめて』と泣いて縋るほど、恥ずかしい体位でな」
「……っ」
レイモンドの唇が弧を描く。
その瞳に宿るのは、ソフィアへの慈愛と熱情、そして、抑えきれない独占欲。――そして、底知れない欲望だ。
ソフィアはかあっと顔を真っ赤に染め、ふい、と顔を逸らしたが、その顎を、レイモンドが優しく、けれど逃げられない強さで掬い上げる。
「今夜は、寝かさないからな、ソフィア」
刹那、問答無用に塞がれる唇。
――月光に照らされた二人の影が、重なり合い、深く、深く絡み合う。
やがて二人の境界線は闇に溶け、どこまでも、どこまでも深いところへ、沈んでいった。
Fin.


