旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜



「……本当に、予想外だったなぁ」

 イシュは、ソフィアからの手紙を読み終えると、小さく息を吐く。
 けれど、その表情には、寂しさや後悔は微塵もない。そこにあるのは、清々しいほどの、晴れやかな微笑みだけ。
 
 世界を股にかけ、すべてを予測し、利益を積み上げてきた大商人の目から見ても、あの日、ハリントン邸でレイモンドが見せたソフィアへの献身は、イシュの「完璧な計画」を上回る熱量を持っていた。
 あの瞬間、イシュは、心からレイモンドを認め、ソフィアを手放すと決めたのだから。

「でも、だからこそ人生は面白い。……僕の計算を狂わせた君たちを、僕は心から敬愛するよ」

 イシュは手紙を閉じ、大切に鍵付きの引き出しにしまった。
 かつては、自分の手でソフィアの望みを叶えることこそが、自分の命題であり、幸福だと信じていた。だが、今のイシュには、遠い海を越えて届く彼女の幸福な便りこそが、何よりの報酬に感じられる。

「フィア、これからも頑張るんだよ。君が創るドレスで、あの古臭い王国を塗り替えていくのを、特等席で見物させてもらうからね」

 イシュは、かつての不純な執着を、吹き抜ける貿易風の中に放り投げた。
 
「イシュ様、次の商談のお時間です」
「ああ、今行くよ。……今日は、とびきりいい絹を仕入れないとね。僕のミューズが欲しがるような、世界一の素材を」


Fin.
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