【完結】旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜

【未来編】女王の工房/ソフィアSide

【ソフィアSide】


 王都の一等地に店を構える『サーラ・レーヴ』本店。その奥に位置する執務室では、ソフィアがスタップに指示を出していた。

 壁一面の棚には、王都郊外にある三つの量産工房から届けられた週次報告書が並び、机の上にはイシュ・ヴァーレンから送られてきた新型ファスナーの納品スケジュールが広げられている。


「……マリー、量産ラインのBグループに伝えて。この既製服(プレタポルテ)のウエストライン、あと一インチだけ余裕を持たせて。ファスナーによる『着脱の楽さ』と、幅広い体型をカバーする『汎用性』。この両立こそが、私たちのブランドの命よ。仕立て屋(オートクチュール)に通えない女性たちにこそ、この自由を届けるの」
「はい、店主(マダム)!  すぐに工房へ連絡します!」

 ソフィアの迷いのない指示に、スタッフたちが活気立って動く。


 今から約五年前、レイモンドから契約結婚を申し込まれた時のソフィアは、せいぜい自分やアリス、あるいは屋敷の使用人らの服をしつける程度のことしかしていなかった。

 けれど今の彼女は、貴族のための最高級ドレスから、中産階級の女性が一人で着替えられる機能的な既製服までをプロデュースする、時代の革命児だ。

「マダム、こちらがイシュ様から届いた、最新の『ドレス用しなやかファスナー』の最終試作です」

 ソフィアは届けられた金属の列を手に取り、その滑らかな動きを確認した。

 ジジッ……という精密な音。それは、かつて彼女がレイモンドに連れられた先の軍港で見た、あの無骨な鉄の塊とは似ても似つかない、宝石のような輝きを放ってい。

(……やっと、ここまで来たわ。これが、私の戦いの『鍵』になる)

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