旦那様、そろそろ離縁のご準備を〜契約結婚三年目、満了日を目前にして旦那様の様子がどこか変です〜
――『互いを詮索しないこと』
それが、契約結婚の条件の内の一つだった。
つまり、レイモンドがこうしてソフィアの交友関係を洗っていることは、明らかに契約に違反している。
かといって、調べないわけにもいかず、レイモンドはこの一週間、この後ろ暗い気持ちに気付かないよう、心に重い蓋をしながら過ごしてきた。
それでも、ソフィアを裏切っているという事実は確かで――。
(まさか俺が、ここまで卑怯な男だったとはな)
それでも、この衝動を抑えられない。
彼女に男がいるというのなら、それは一体どんな相手なのか。彼女に愛される幸運な男の正体を、知らねば気が済まない。
窓外を流れる街灯の光が、彼の横顔を一瞬照らし、また闇に沈めた。
やがて、屋敷の門が見えてくる。
高くそびえる鉄柵の向こう、玄関前のロータリーには既に侍従が待機していた。
馬車が止まり、御者が扉を開ける。
レイモンドは無言で降り立ち、夜気を胸いっぱいに吸い込んだ。
冷たい空気が肺を満たし、わずかに意識が冴える。
「お帰りなさいませ、旦那様」
レイモンドは屋敷の中に入り、侍従を伴い廊下を進んだ。
「ソフィアはどうしている?」
いつものように尋ねると、侍従は答える。
「奥様は夕食を終えられ、既にお休みになりました」
「日中は? 何か変わったことはなかったか?」
「本日はヴァーレン商会の方が訪ねてこられました。先日のチャリティーの礼を伝えに」
ヴァーレン商会――その名前に、レイモンドは一瞬眉をひそめた。