愚かな婚約者様、あなたの"浮気相手"は私の味方ですよ? 〜手を組んだ2人の才女による華麗なる制裁〜
13、王都到着
「そういえば、カトリーヌはどんな魔道具を作ろうとしていたのだ? 確か緑光石という素材を採取したと言っていたが」
エルベルトの問いかけに、カトリーヌは少し言葉に詰まった。なぜなら今回カトリーヌが作ろうとしている魔道具の話をすると、セドリックのことも大きく絡んでくるのだ。
ただ、竜族を相手に嘘を付きたくはなかった。
「今回作る予定なのは、氷を作り出す魔道具の小型版です」
「氷を? 小型化とはどういうことだろうか?」
エルベルトは興味深げな表情を浮かべている。
「手のひらに乗る大きさで、懐に忍ばせられるようなものを作りたいと考えています」
「そんなに小さく……する必要があるのだろうか」
当たり前の疑問だろう。護身用になどと考えなければ、氷を作り出す魔道具を持ち歩きたいような稀有な者はほとんどいない。
「はい。実は今回の魔道具は、わたしの友人に渡そうと考えているものでして」
それからカトリーヌはセドリックのこと。さらにコレットが考えてくれた作戦のことを簡潔に話した。話終わったところで少し後ろ向きな性格が出てしまい、俯きながら小さく告げる。
「貴族家に生まれた者として、国のためにわたしが我慢をすればいいと分かっているのですが、わたしが上手く立ち回れず……」
自らの責任だと反省を示そうとしたカトリーヌの肩を、身を乗り出したエルベルトが強めに掴んだ。
「いや、カトリーヌに悪いところは全くないだろう。そのセドリックという王子はなんなのだ。どう考えてもその男が悪い。俺はコレットという君の友人に大賛成だ」
竜族であるエルベルトに肯定してもらえたことで、カトリーヌの中にずっとしつこく存在していた罪悪感が、スッと消えたのを感じた。
(わたしは我慢しなくても、いいんだ)
カトリーヌはなぜか涙が迫り上がってきそうになり、慌てて深呼吸をして押し止める。嬉しい気持ちで、涙を堪えながら笑みを浮かべたカトリーヌは、儚く美しかった。
間近で見たエルベルトは、少しだけ固まる。自分がカトリーヌの肩を掴んだままであることにハッと気づき、慌てて手を離して座席に戻った。
「すまない。女性に触れるなど……」
「いえ、気になさらないでください。婚約者も、いなくなる予定ですし」
冗談のようにカトリーヌが告げると、エルベルトも頬を緩めた。
「無事に婚約が破棄となることを祈っている。カトリーヌの貴族としての覚悟は素晴らしいと思うが、もっと自分の幸せを追求してもいいはずだ。――そうだ、何か俺に手伝えることがあれば力になろう」
「さすがにそこまでは」
カトリーヌが両手を横に振ると、エルベルトはニッと口角を上げて言った。
「その代わりに、しばらく侯爵家に滞在させてもらえたらありがたい。魔道具について色々と教えてもらいたいし、先ほど言っていた研究もやりたいからな」
そう言われてしまったら、カトリーヌは頷くことしかできなかった。
「……かしこまりました。もちろんコルディエ侯爵家に好きなだけご滞在ください」
勝手に答えてしまったが、竜族の滞在を拒む貴族などいないので問題ないだろう。
「ありがとう」
そうして二人が話をしているうちに、馬車は王都が見える位置まで進んだようだ。それに気づいたエルベルトが楽しそうに窓の外を見る。
「人間の街は初めてだ」
「そうなのですか?」
「ああ、特に人との交流が禁止されたり制限されているわけではないのだが、今まで機会がなかった」
「では、屋敷に着くまでの間に少し街をご案内いたしますね」
「ありがとう。それは楽しみだ」
エルベルトが瞳を輝かせているのを確認し、カトリーヌは少し遠回りになるが大通りを通って屋敷まで戻ることに決めた。
御者に伝えると、一番いい道順をすぐに選んでくれる。
それからしばらく進み、カトリーヌたちを乗せた馬車は王都で一番の大通りに向かった。
「ここが一番栄えている場所です」
この大通りはどちらかと言えば平民向けの店が立ち並ぶのだが、最近の人気店や少し高級志向のおしゃれなカフェなども並び、貴族でも訪れることがある場所だった。
正直なところ、カトリーヌは出かけるならば屋敷の部屋にこもって魔道具開発をしているタイプなので、案内できるほど詳しくはない。しかし流行に敏感なコレットの話をたくさん聞いているため、知っている店名はいくつもあった。
さらにコレットが土産としていつもカフェのスイーツを買ってきてくれるため、その味も知っている。
「あ、あのカフェはマドレーヌが絶品です」
つい最近コレットが土産として持参してくれたマドレーヌだ。カトリーヌはとても気に入って、珍しく自ら取り寄せもしたほどである。
「ほう、それは気になるな。マドレーヌというものは初めて聞いた」
「ご存知ないのですか?」
カトリーヌは驚いてしまう。
エルベルトは普通にファーブル王国で使われているフーリ語を流暢に話しているため、知識の差に思い至らなかったのだ。
「俺たちの集落にはないな」
「そうなのですね……」
そもそも、竜族の集落では何語が話されているのだろうか。カトリーヌは疑問に思った。もしかしたらマドレーヌの呼び方が違うだけかもしれない。
「竜族の皆様はフーリ語以外にどんな言語を使われるのですか?」
人間社会の中でもフーリ語以外の言語はたくさんある。多くの国で第一言語として採用されているのがフーリ語であるため、ファーブル王国もそれに倣っているが、王国内でも地方では別の言語が使われていることもあった。
「基本的にはフーリ語のみだな。過去の長が集落の方針として、人と同じ言語を話すようにと決めたそうだ」
「そんな経緯が……しかしそのような形だとすれば、固有名詞には昔の名残があるのかもしれませんね。マドレーヌを購入してみますので、召し上がったことがあるのかお確かめください」
「ありがとう。そうしてみよう」
方針が決まったところで、馬車の外を歩く護衛の二人のうち目が合ったリンに声をかけた。
エルベルトの問いかけに、カトリーヌは少し言葉に詰まった。なぜなら今回カトリーヌが作ろうとしている魔道具の話をすると、セドリックのことも大きく絡んでくるのだ。
ただ、竜族を相手に嘘を付きたくはなかった。
「今回作る予定なのは、氷を作り出す魔道具の小型版です」
「氷を? 小型化とはどういうことだろうか?」
エルベルトは興味深げな表情を浮かべている。
「手のひらに乗る大きさで、懐に忍ばせられるようなものを作りたいと考えています」
「そんなに小さく……する必要があるのだろうか」
当たり前の疑問だろう。護身用になどと考えなければ、氷を作り出す魔道具を持ち歩きたいような稀有な者はほとんどいない。
「はい。実は今回の魔道具は、わたしの友人に渡そうと考えているものでして」
それからカトリーヌはセドリックのこと。さらにコレットが考えてくれた作戦のことを簡潔に話した。話終わったところで少し後ろ向きな性格が出てしまい、俯きながら小さく告げる。
「貴族家に生まれた者として、国のためにわたしが我慢をすればいいと分かっているのですが、わたしが上手く立ち回れず……」
自らの責任だと反省を示そうとしたカトリーヌの肩を、身を乗り出したエルベルトが強めに掴んだ。
「いや、カトリーヌに悪いところは全くないだろう。そのセドリックという王子はなんなのだ。どう考えてもその男が悪い。俺はコレットという君の友人に大賛成だ」
竜族であるエルベルトに肯定してもらえたことで、カトリーヌの中にずっとしつこく存在していた罪悪感が、スッと消えたのを感じた。
(わたしは我慢しなくても、いいんだ)
カトリーヌはなぜか涙が迫り上がってきそうになり、慌てて深呼吸をして押し止める。嬉しい気持ちで、涙を堪えながら笑みを浮かべたカトリーヌは、儚く美しかった。
間近で見たエルベルトは、少しだけ固まる。自分がカトリーヌの肩を掴んだままであることにハッと気づき、慌てて手を離して座席に戻った。
「すまない。女性に触れるなど……」
「いえ、気になさらないでください。婚約者も、いなくなる予定ですし」
冗談のようにカトリーヌが告げると、エルベルトも頬を緩めた。
「無事に婚約が破棄となることを祈っている。カトリーヌの貴族としての覚悟は素晴らしいと思うが、もっと自分の幸せを追求してもいいはずだ。――そうだ、何か俺に手伝えることがあれば力になろう」
「さすがにそこまでは」
カトリーヌが両手を横に振ると、エルベルトはニッと口角を上げて言った。
「その代わりに、しばらく侯爵家に滞在させてもらえたらありがたい。魔道具について色々と教えてもらいたいし、先ほど言っていた研究もやりたいからな」
そう言われてしまったら、カトリーヌは頷くことしかできなかった。
「……かしこまりました。もちろんコルディエ侯爵家に好きなだけご滞在ください」
勝手に答えてしまったが、竜族の滞在を拒む貴族などいないので問題ないだろう。
「ありがとう」
そうして二人が話をしているうちに、馬車は王都が見える位置まで進んだようだ。それに気づいたエルベルトが楽しそうに窓の外を見る。
「人間の街は初めてだ」
「そうなのですか?」
「ああ、特に人との交流が禁止されたり制限されているわけではないのだが、今まで機会がなかった」
「では、屋敷に着くまでの間に少し街をご案内いたしますね」
「ありがとう。それは楽しみだ」
エルベルトが瞳を輝かせているのを確認し、カトリーヌは少し遠回りになるが大通りを通って屋敷まで戻ることに決めた。
御者に伝えると、一番いい道順をすぐに選んでくれる。
それからしばらく進み、カトリーヌたちを乗せた馬車は王都で一番の大通りに向かった。
「ここが一番栄えている場所です」
この大通りはどちらかと言えば平民向けの店が立ち並ぶのだが、最近の人気店や少し高級志向のおしゃれなカフェなども並び、貴族でも訪れることがある場所だった。
正直なところ、カトリーヌは出かけるならば屋敷の部屋にこもって魔道具開発をしているタイプなので、案内できるほど詳しくはない。しかし流行に敏感なコレットの話をたくさん聞いているため、知っている店名はいくつもあった。
さらにコレットが土産としていつもカフェのスイーツを買ってきてくれるため、その味も知っている。
「あ、あのカフェはマドレーヌが絶品です」
つい最近コレットが土産として持参してくれたマドレーヌだ。カトリーヌはとても気に入って、珍しく自ら取り寄せもしたほどである。
「ほう、それは気になるな。マドレーヌというものは初めて聞いた」
「ご存知ないのですか?」
カトリーヌは驚いてしまう。
エルベルトは普通にファーブル王国で使われているフーリ語を流暢に話しているため、知識の差に思い至らなかったのだ。
「俺たちの集落にはないな」
「そうなのですね……」
そもそも、竜族の集落では何語が話されているのだろうか。カトリーヌは疑問に思った。もしかしたらマドレーヌの呼び方が違うだけかもしれない。
「竜族の皆様はフーリ語以外にどんな言語を使われるのですか?」
人間社会の中でもフーリ語以外の言語はたくさんある。多くの国で第一言語として採用されているのがフーリ語であるため、ファーブル王国もそれに倣っているが、王国内でも地方では別の言語が使われていることもあった。
「基本的にはフーリ語のみだな。過去の長が集落の方針として、人と同じ言語を話すようにと決めたそうだ」
「そんな経緯が……しかしそのような形だとすれば、固有名詞には昔の名残があるのかもしれませんね。マドレーヌを購入してみますので、召し上がったことがあるのかお確かめください」
「ありがとう。そうしてみよう」
方針が決まったところで、馬車の外を歩く護衛の二人のうち目が合ったリンに声をかけた。