愚かな婚約者様、あなたの"浮気相手"は私の味方ですよ? 〜手を組んだ2人の才女による華麗なる制裁〜

16、戸惑いと楽しげなコレット

「君がコレットだな」
「はい。コレット・ルガルでございます」
「コレットの立てた作戦を聞いたぞ。とても素晴らしいな。セドリックという名の男は、確実にカトリーヌから遠ざけるべきだろう」

 エルベルトの熱のこもった話に、コレットは驚いたように目を見張る。

「カトリーヌから聞いたのですか?」
「ああ、話の流れでな」
「そうだったのですね。エルベルト様にそう仰っていただけると、とても自信が持てますわ。ありがとうございます」

 嬉しそうに笑みを浮かべて頭を下げたコレットに、エルベルトはさらに伝える。

「何か俺に手助けできることがあったら言ってくれ。しばらくここにいるだろうし、カトリーヌにはこれから色々と世話になる予定だ。俺もカトリーヌへ礼がしたい」
「かしこまりました。とても心強いです」

 カトリーヌが礼などいらないと伝える前に、満面の笑みのコレットが頷いてしまった。コレットは強かなのだ。遠慮が求められている時はするが、それ以外の時はもらえるものはもらっておけ精神である。

 二人の会話にカトリーヌが口を挟めないでいると、コレットがエルベルトの全身に視線を向けて口を開いた。

「エルベルト様、差し出がましいことを申していたら恐縮ですが、今の格好はこの国ですと少し目立つかもしれません。もし屋敷から出るような可能性があるならば、この国の流行に合わせた服装にすると、今よりは目立たなくなるでしょう」

 すでに順応し始めていて、竜族であるエルベルトに意見を述べているコレットだ。

 カトリーヌは純粋にそんなコレットを尊敬した。

「そうか。ではこの国の流行を教えて欲しい。竜族であると広まり、魔道具についてゆっくり学んだり研究したりできなくなると困るからな」
「かしこまりました。エルベルト様のように長身の方ですと……」

 そこからはコレットの独壇場である。

 服やアクセサリーが大好きなコレットは、他人を着飾るのも好きなのだ。基本的にその対象は女性だが、エルベルトほど体格が良くて美形だと、男性でも楽しいらしい。

 コレットの話に耳を傾けているエルベルトも、とても楽しそうだ。二人の会話を横で聞いていて、カトリーヌはほんの僅かな寂しさを感じた。

 セドリックがいくら隣で令嬢たちとイチャイチャしようが寂しいとは思わなかったのに、自分の気持ちに驚いてしまう。

(わたしの方が先に知り合ったのに……なんて、そんな優越感を抱いていたのかしら)

 カトリーヌは自分を恥じて、首を横に振った。
 エルベルトが楽しそうにしているのは良いことだと、胸の中で自分に言い聞かせる。

「カトリーヌはどう思う?」

 突然話を振られて、カトリーヌはハッと顔を上げた。

「……ごめん。聞いていなかったわ」

 その返答に、コレットは驚きを露わにする。

「珍しいわね。大丈夫? 体調でも悪いの?」

 エルベルトもカトリーヌに心配そうな表情を向けた。

「疲れているのではないか? 俺の歓迎や礼などは後でいいから、今日はすぐに休んで……」
「い、いえ、大丈夫です。少し考え事をしてしまっただけで」

 すぐにそう伝えるが、エルベルトは訝しげなままだった。

「しかし、少し顔色が悪いように見える。熱は……」
「っ」

 エルベルトの手のひらがカトリーヌの額に当てられ、カトリーヌは思わず息を呑む。

「あ、すまない。人間はこうしないのだろうか」

 カトリーヌの強張った体を見て、エルベルトはすぐに手を離した。

「い、いえ、する人たちもいると思いますが、わたしは初めてで……」

 侯爵家では、発熱の可能性があったならばしっかりと体温計で測るのが常識だ。仲の良い家族だが、やはり侯爵家である。

 カトリーヌが体調を崩した時も基本的に世話をするのはメイドや医者であり、その役割の者たちが適当な熱の測り方をするはずもなかった。

 しかしそんなことよりも、エルベルトに触れられたという事実に、カトリーヌは自分で驚くほど動揺していた。

「そうか、それはすまなかった。しかし熱くはないようだったから一安心だな」

 そう言って近い距離で笑みを浮かべたエルベルトに、カトリーヌは自分の心臓がドキドキしているのを感じる。

(わたしどうしたの……? エルベルト様は今日会ったばかりの人なのに)

「心配してくださってありがとうございます。しかし、大丈夫です」

 動揺して照れているカトリーヌと、熱がないことを確認した後もカトリーヌの体調に注意を払っている様子のエルベルト。

 二人のやり取りを見ていたコレットは、何かを感じ取ったのかにっこりと綺麗な笑みを浮かべて言った。

「エルベルト様はご結婚などされているのですか?」

 突然の問いかけに、一番驚いたのはカトリーヌだ。

「コレット、何を聞いて……!」

 慌てるカトリーヌをよそに、エルベルトは普通に答える。

「いや、していない。そういう相手はいないな」
「そうなのですね! 竜族の方って人間と縁を結ぶことも可能なのですか?」
「人間と……そうだな。禁止されてはいない。確か過去に数人、そういう人がいたと聞いた。ただその場合、基本的に生まれる子供が魔力を得ることはないそうだ。独身のまま生涯を終える者もいるため、そこは問題ないのだろう」

 エルベルトの返答に、コレットの口角が上がっていく。

「では、カトリーヌと縁を結ぶこともできるのですね! カトリーヌは近いうちに婚約破棄となります。私が必ずセドリックの瑕疵による婚約破棄にしますが、カトリーヌはもう十八です。また婚約者を見つけるのは少し大変だと思うのです」

 実際はコルディエ侯爵の力があり、カトリーヌ本人も有能であるため困らないだろうが、コレットは少し大袈裟に言った。

 それに驚いたのはエルベルトだ。

「まさか、十八でもう遅いのか? 随分と人間の結婚は早いのだな」
「竜族の皆様はもう少し遅いのですか?」
「そうだな……二十五ぐらいが平均だろうか。俺は二十二なのだが、まだ結婚を急かされたことはない」

 竜族の寿命は人間とあまり変わらないが、人間の国よりも身分差というものが少なく、だからこそ後継者のために子供を急いで作るという意識も薄いため、結婚年齢が遅めなのだ。

「まあ、そうなのですね! カトリーヌとピッタリですわ!」

 グイグイ押すコレットに、カトリーヌがソファーから立ち上がって、コレットの口を物理的に塞いだ。

「コレット、わたしなんて押し付けたら失礼でしょ!」
 カトリーヌが咎めた言葉に、苦笑を浮かべていたエルベルトが口を開く。

「いや、カトリーヌはとても魅力的な女性だと思う。迷惑に思うことはない。ただ……さすがに知り合ったばかりだからな」

 魅力的と言われて、カトリーヌは自分の頬が赤くなるのを感じた。

 それを抑えられないまま、エルベルトに体ごと視線を向けて少し俯く。

「ありがとう、ございます」

 二人の間に少し居心地が悪いような、むず痒いような空気が流れたところで、応接室のドアがノックされた。
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