愚かな婚約者様、あなたの"浮気相手"は私の味方ですよ? 〜手を組んだ2人の才女による華麗なる制裁〜
17、親友二人の会話
「失礼いたします。エルベルト様のお部屋がご準備できました」
使用人の呼びかけで変な方向に進んだ話は終わりとなったが、エルベルトは少しだけ困ったような表情を浮かべていて、カトリーヌはまだ照れて戸惑っている。
そんな中で、コレットが楽しそうに話を続けた。
「どうぞエルベルト様、お部屋に向かわれてください。私はそろそろお暇いたしますが、またお会いできたら嬉しいです」
立ち上がってから可愛らしくカーテシーをしたコレットに、エルベルトも立ち上がる。
「ああ、機会はあるだろう。何か手助けが必要になったら、いつでも声をかけてくれて構わない。それから服装の助言、とても助かった」
「ありがとうございます。服は既製品などで問題なければ、すぐに購入可能でしょう。コルディエ侯爵家にはカトリーヌの兄もおりますので、購入しても不自然さはないかと」
カトリーヌには三歳上の兄がいる。今は父親に付いて仕事を学んでいて、優秀なのだが貴族としては少し優しすぎるところがあり、貴族家の当主として相応しくなれるよう努力をしている最中だ。
妹であるカトリーヌのことは心配しているし、仲は普通に良いのだが、互いに忙しいということもあって最近はあまり話をしていない。
「それは朗報だな。あまりこの家に迷惑をかけたくはない」
そうしてコレットとの話が終わったエルベルトは、カトリーヌにも声をかけた。
「一度客室へと下がらせてもらう」
「かしこまりました。夕食まで、ごゆっくりと休まれてください」
「ありがとう」
カトリーヌの言葉に嬉しそうに微笑んだエルベルトは、応接室を出て客室に向かった。
室内にカトリーヌとコレットだけになったところで、コレットがカトリーヌの腕を引いて、二人は同じソファーに体をくっつけて腰掛ける形になる。
「ちょっとカトリーヌ! これは運命の出会いだわ!」
テンションの高いコレットに、カトリーヌは慌てて両手を横に振った。
「そんなのじゃないから。たまたま助けていただいただけで、エルベルト様はわたしなんかとは到底釣り合わないお方よ」
「そんなことないわよ」
「そんなことあるわ」
「ないわ」
「ある」
頑ななカトリーヌにコレットは可愛らしく頬を膨らませると、大きく息を吐き出した。
「はぁぁ……まあ、今はそういうことにしておきましょう。とにかくエルベルト様がいらっしゃって、カトリーヌが無事で良かったわ。そして魔道具に関して竜族の方に教えるなんて、凄いことだわ」
その言葉には、カトリーヌも素直に頷いた。
「ええ、なんだかまだ夢見心地なの。でもわたしにできることを頑張るわ」
その決意に、コレットは嬉しそうに口角を上げる。
「そうね。私ももっと頑張るわ。――そうだ、エルベルト様の存在はセドリックにバレないように気をつけた方がいいわよ」
「それはわたしも思っていたのよ。セドリック殿下は何かをやらかしそうだから」
「絶対にやらかすわよ。竜族の方だってことは当然隠すとして、できればエルベルト様がこの屋敷にいることも隠せたらいいわね。カトリーヌが浮気をした! なんて自分のことを棚に上げて言い出すに決まってるわ」
カトリーヌはさすがのセドリックでもそこまでは……と思ったが、あり得そうだとも思ってしまい、明確に反論できなかった。
「エルベルト様の存在がバレた時は、侯爵様のご友人という形で押し進めるしかないけれど、侯爵様とはもう少し詳細を詰めておいた方がいいと思うわ」
「そうね。お父様と話し合っておくわ」
「そうしなさい」
そこで二人の話も終わり、コレットが立ち上がったところで、カトリーヌはふと思い出した。
「そういえば、コレットは何か用事があったのではないの?」
作戦の実行中、コレットはあまり侯爵家に来ないようにしていたのだ。それなのに今ここにいるということは、大切な用事があったということになる。
「あ、そうだったわ。エルベルト様の衝撃で忘れるところだった」
ペロッと舌を出してから、コレットは居住まいを正した。
「作戦の進捗を報告に来たのよ。実は無事にセドリックの懐に入り込めたわ。あいつはもう私にメロメロよ。それからデボラ嬢が立場を奪われてかなり怒っていたから、そのうち嫌がらせをしてくることは確実だわ。ちょっとだけ可愛い笑顔で煽っておいたから、今度のお茶会で何かをしてくるんじゃないかしら」
「もうそんなところまで進んだの?」
カトリーヌはかなり驚いてしまった。予想では、まだセドリックへの接触を試みている段階だと思っていたのだ。
「私の可愛さがあれば簡単よ。……と冗談はさておき、セドリックがチョロすぎるのよ。パーティーでちょっと近づいて笑顔を見せて、わざとよろけて胸を軽く当てたら、それだけでデレデレしてきたわ。そして、向こうで二人で話さないか? って。あそこで頬を赤らめて頷けた自分の演技力を褒めたいわね」
コレットの話を聞いて、カトリーヌはその様子が容易に想像できてしまった。やはりコレットの言う通り、セドリックに国を背負うのは無理なのだろう。
カトリーヌは改めてその事実を確認でき、作戦が上手くいっていることを喜べばいいのか、セドリックの愚かさを嘆けばいいのかよく分からなくなった。
微妙な表情になってしまったカトリーヌは、コレットに伝える。
「とりあえず……コレット、本当にごめん。そしてありがとう」
「いいのよ。私も意外と楽しんでるわ。多分予想より早く作戦の最終段階になるから、カトリーヌも心の準備をしておいてね」
「もちろんよ。あ、そうだ。そんなに作戦の進みが早いなら、考えてる魔道具をすぐに作るから受け取ってほしいの。ルガル伯爵家宛に送っておくわ。護身用になると思って開発中なの」
色々あって忘れかけていた、小型化する氷を作り出す魔道具について話をすると、コレットは瞳を輝かせた。
「私のために作ってくれたの?」
「そうよ」
「ありがとう。嬉しいわ」
満面の笑みを浮かべるコレットは、とても可愛らしい。
「わたしはこのぐらいしかできないから」
「カトリーヌのこのぐらいは、実はかなり凄いことをしてるのよね……その魔道具ってどういうものなの? 使い方はまだ教えられる段階じゃない?」
「大体なら――」
そこからはコレットの質問攻めに、カトリーヌが設計図を思い出しながら答える時間が過ぎていった。コレットはカトリーヌが作る魔道具が好きなのだ。
「やっぱりカトリーヌは凄いわ!」
「こんなの小型化するだけよ」
「それをできるのが凄いんじゃない。それに護身用として氷を作り出す魔道具を考えるのも面白いわ。肌身離さず持ち歩くわね」
「ありがとう」
コレットが魔道具を持ち歩いてくれると分かり、カトリーヌは少し安心できた。危ない橋を渡っているコレットのことは、ずっと心配している。
「その魔道具、カトリーヌも持っているのはどう?」
「え、わたしも?」
「ええ、カトリーヌも危険だと思うわ。セドリックって、カトリーヌが離れようとすると執着する面倒なタイプな気がするのよね……」
コレットの予想に、カトリーヌはさすがに頷くことはできなかった。
「あんなにわたしのことが嫌いなのよ?」
「でもあそこまで馬鹿にするのも、変に執着している証だと思うわ。本当に嫌いで嫌なら、無視するのが一番だもの」
確かに嫌だと言いながらも、セドリックはカトリーヌを完全に無視したことはないのだ。それに気づいて、カトリーヌは背筋が寒くなる。
「それに執着を見せなかったとしても、逆恨みのような形でカトリーヌに何かをしてくる可能性はあるわ。とにかくセドリックは何をやらかすか分からないから、用心しておくに越したことはないわよ」
コレットの言う通りだった。
「一応、作っておくわ」
「それがいいわ。私とお揃いね」
嬉しそうに言ったコレットに、雰囲気が一気に明るくなる。
「そう思うと、少し可愛くした方がいい?」
「うーん、確かに可愛かったら嬉しいけど、使用感を優先するのでいいわよ。カトリーヌはそちらの方が好きでしょう?」
魔道具にはデザイン性よりも実用性を求めがちなカトリーヌのことを完全に分かっているコレットだ。それが嬉しくて、カトリーヌは頬を緩めた。
「ありがとう。それなら、使いやすく作るわ」
「楽しみにしてるわね!」
そこで完全に二人の話も終わり、コレットは屋敷を後にすることになった。あまり目立たないように出ていくコレットを見送ったカトリーヌは、時計を確認する。
今日の夕食はエルベルトとの夕食会となる関係で、いつもより遅い時間だ。少しだけ魔道具製作を進められると判断して、カトリーヌは魔道具研究室に向かって軽い足取りで廊下を進んだ。
使用人の呼びかけで変な方向に進んだ話は終わりとなったが、エルベルトは少しだけ困ったような表情を浮かべていて、カトリーヌはまだ照れて戸惑っている。
そんな中で、コレットが楽しそうに話を続けた。
「どうぞエルベルト様、お部屋に向かわれてください。私はそろそろお暇いたしますが、またお会いできたら嬉しいです」
立ち上がってから可愛らしくカーテシーをしたコレットに、エルベルトも立ち上がる。
「ああ、機会はあるだろう。何か手助けが必要になったら、いつでも声をかけてくれて構わない。それから服装の助言、とても助かった」
「ありがとうございます。服は既製品などで問題なければ、すぐに購入可能でしょう。コルディエ侯爵家にはカトリーヌの兄もおりますので、購入しても不自然さはないかと」
カトリーヌには三歳上の兄がいる。今は父親に付いて仕事を学んでいて、優秀なのだが貴族としては少し優しすぎるところがあり、貴族家の当主として相応しくなれるよう努力をしている最中だ。
妹であるカトリーヌのことは心配しているし、仲は普通に良いのだが、互いに忙しいということもあって最近はあまり話をしていない。
「それは朗報だな。あまりこの家に迷惑をかけたくはない」
そうしてコレットとの話が終わったエルベルトは、カトリーヌにも声をかけた。
「一度客室へと下がらせてもらう」
「かしこまりました。夕食まで、ごゆっくりと休まれてください」
「ありがとう」
カトリーヌの言葉に嬉しそうに微笑んだエルベルトは、応接室を出て客室に向かった。
室内にカトリーヌとコレットだけになったところで、コレットがカトリーヌの腕を引いて、二人は同じソファーに体をくっつけて腰掛ける形になる。
「ちょっとカトリーヌ! これは運命の出会いだわ!」
テンションの高いコレットに、カトリーヌは慌てて両手を横に振った。
「そんなのじゃないから。たまたま助けていただいただけで、エルベルト様はわたしなんかとは到底釣り合わないお方よ」
「そんなことないわよ」
「そんなことあるわ」
「ないわ」
「ある」
頑ななカトリーヌにコレットは可愛らしく頬を膨らませると、大きく息を吐き出した。
「はぁぁ……まあ、今はそういうことにしておきましょう。とにかくエルベルト様がいらっしゃって、カトリーヌが無事で良かったわ。そして魔道具に関して竜族の方に教えるなんて、凄いことだわ」
その言葉には、カトリーヌも素直に頷いた。
「ええ、なんだかまだ夢見心地なの。でもわたしにできることを頑張るわ」
その決意に、コレットは嬉しそうに口角を上げる。
「そうね。私ももっと頑張るわ。――そうだ、エルベルト様の存在はセドリックにバレないように気をつけた方がいいわよ」
「それはわたしも思っていたのよ。セドリック殿下は何かをやらかしそうだから」
「絶対にやらかすわよ。竜族の方だってことは当然隠すとして、できればエルベルト様がこの屋敷にいることも隠せたらいいわね。カトリーヌが浮気をした! なんて自分のことを棚に上げて言い出すに決まってるわ」
カトリーヌはさすがのセドリックでもそこまでは……と思ったが、あり得そうだとも思ってしまい、明確に反論できなかった。
「エルベルト様の存在がバレた時は、侯爵様のご友人という形で押し進めるしかないけれど、侯爵様とはもう少し詳細を詰めておいた方がいいと思うわ」
「そうね。お父様と話し合っておくわ」
「そうしなさい」
そこで二人の話も終わり、コレットが立ち上がったところで、カトリーヌはふと思い出した。
「そういえば、コレットは何か用事があったのではないの?」
作戦の実行中、コレットはあまり侯爵家に来ないようにしていたのだ。それなのに今ここにいるということは、大切な用事があったということになる。
「あ、そうだったわ。エルベルト様の衝撃で忘れるところだった」
ペロッと舌を出してから、コレットは居住まいを正した。
「作戦の進捗を報告に来たのよ。実は無事にセドリックの懐に入り込めたわ。あいつはもう私にメロメロよ。それからデボラ嬢が立場を奪われてかなり怒っていたから、そのうち嫌がらせをしてくることは確実だわ。ちょっとだけ可愛い笑顔で煽っておいたから、今度のお茶会で何かをしてくるんじゃないかしら」
「もうそんなところまで進んだの?」
カトリーヌはかなり驚いてしまった。予想では、まだセドリックへの接触を試みている段階だと思っていたのだ。
「私の可愛さがあれば簡単よ。……と冗談はさておき、セドリックがチョロすぎるのよ。パーティーでちょっと近づいて笑顔を見せて、わざとよろけて胸を軽く当てたら、それだけでデレデレしてきたわ。そして、向こうで二人で話さないか? って。あそこで頬を赤らめて頷けた自分の演技力を褒めたいわね」
コレットの話を聞いて、カトリーヌはその様子が容易に想像できてしまった。やはりコレットの言う通り、セドリックに国を背負うのは無理なのだろう。
カトリーヌは改めてその事実を確認でき、作戦が上手くいっていることを喜べばいいのか、セドリックの愚かさを嘆けばいいのかよく分からなくなった。
微妙な表情になってしまったカトリーヌは、コレットに伝える。
「とりあえず……コレット、本当にごめん。そしてありがとう」
「いいのよ。私も意外と楽しんでるわ。多分予想より早く作戦の最終段階になるから、カトリーヌも心の準備をしておいてね」
「もちろんよ。あ、そうだ。そんなに作戦の進みが早いなら、考えてる魔道具をすぐに作るから受け取ってほしいの。ルガル伯爵家宛に送っておくわ。護身用になると思って開発中なの」
色々あって忘れかけていた、小型化する氷を作り出す魔道具について話をすると、コレットは瞳を輝かせた。
「私のために作ってくれたの?」
「そうよ」
「ありがとう。嬉しいわ」
満面の笑みを浮かべるコレットは、とても可愛らしい。
「わたしはこのぐらいしかできないから」
「カトリーヌのこのぐらいは、実はかなり凄いことをしてるのよね……その魔道具ってどういうものなの? 使い方はまだ教えられる段階じゃない?」
「大体なら――」
そこからはコレットの質問攻めに、カトリーヌが設計図を思い出しながら答える時間が過ぎていった。コレットはカトリーヌが作る魔道具が好きなのだ。
「やっぱりカトリーヌは凄いわ!」
「こんなの小型化するだけよ」
「それをできるのが凄いんじゃない。それに護身用として氷を作り出す魔道具を考えるのも面白いわ。肌身離さず持ち歩くわね」
「ありがとう」
コレットが魔道具を持ち歩いてくれると分かり、カトリーヌは少し安心できた。危ない橋を渡っているコレットのことは、ずっと心配している。
「その魔道具、カトリーヌも持っているのはどう?」
「え、わたしも?」
「ええ、カトリーヌも危険だと思うわ。セドリックって、カトリーヌが離れようとすると執着する面倒なタイプな気がするのよね……」
コレットの予想に、カトリーヌはさすがに頷くことはできなかった。
「あんなにわたしのことが嫌いなのよ?」
「でもあそこまで馬鹿にするのも、変に執着している証だと思うわ。本当に嫌いで嫌なら、無視するのが一番だもの」
確かに嫌だと言いながらも、セドリックはカトリーヌを完全に無視したことはないのだ。それに気づいて、カトリーヌは背筋が寒くなる。
「それに執着を見せなかったとしても、逆恨みのような形でカトリーヌに何かをしてくる可能性はあるわ。とにかくセドリックは何をやらかすか分からないから、用心しておくに越したことはないわよ」
コレットの言う通りだった。
「一応、作っておくわ」
「それがいいわ。私とお揃いね」
嬉しそうに言ったコレットに、雰囲気が一気に明るくなる。
「そう思うと、少し可愛くした方がいい?」
「うーん、確かに可愛かったら嬉しいけど、使用感を優先するのでいいわよ。カトリーヌはそちらの方が好きでしょう?」
魔道具にはデザイン性よりも実用性を求めがちなカトリーヌのことを完全に分かっているコレットだ。それが嬉しくて、カトリーヌは頬を緩めた。
「ありがとう。それなら、使いやすく作るわ」
「楽しみにしてるわね!」
そこで完全に二人の話も終わり、コレットは屋敷を後にすることになった。あまり目立たないように出ていくコレットを見送ったカトリーヌは、時計を確認する。
今日の夕食はエルベルトとの夕食会となる関係で、いつもより遅い時間だ。少しだけ魔道具製作を進められると判断して、カトリーヌは魔道具研究室に向かって軽い足取りで廊下を進んだ。