愚かな婚約者様、あなたの"浮気相手"は私の味方ですよ? 〜手を組んだ2人の才女による華麗なる制裁〜
25、コレットからの報告
セドリックが突然屋敷に来た日から数日後。今度は夕方ごろに、コレットがやってきた。
「カトリーヌ! やったわよ!」
コレットは満面の笑みで、カトリーヌの顔を見た瞬間に抱きつく。いつもはあまりしないその様子から、コレットの嬉しさが窺えた。
「作戦が上手くいったの?」
「ええ! 侯爵様はいらっしゃるかしら。エルベルト様は?」
「お父様はお仕事よ。エルベルト様はいらっしゃるわ」
「ではひとまず、カトリーヌとエルベルト様に報告するわね」
そう言って意気揚々と応接室に向かうコレットを、慌ててカトリーヌが止める。
「ちょっと待って。エルベルト様も?」
エルベルトに同席してもらう必要はないのではないかと思ったのだ。しかしそんなカトリーヌの考えを聞いて、コレットは大袈裟なほどに目を見開いた。
「絶対に必要よ。ほら、エルベルト様は何かがあれば助けると仰ったじゃない。ちゃんとご報告しなければ失礼だわ」
詳細を聞かせれば、それだけ巻き込むことになり迷惑をかける。しかしすでに作戦を知っているエルベルトは巻き込まれているも同然であり、ここで変に遠ざけるのは逆に失礼かもしれない。
カトリーヌはそんな葛藤の末に、躊躇いながらも頷いた。
「確かに、そうかも」
「でしょう? ほら、早くエルベルト様も呼んできてちょうだい」
そうしてコレットの勢いに流されるような形で、カトリーヌとコレット、エルベルトの三人が屋敷の応接室に集まった。
使用人に準備してもらったお茶を飲んでから、コレットが先ほどまでよりも幾分か落ち着いた様子で口を開く。
「それで、さっそく本題でもいいかしら」
「ええ、お願い」
カトリーヌが頷くと、コレットは居住まいを正して結論から告げた。
「一週間後に王城で開かれる陛下主催のパーティーがあるでしょう? そのパーティーで、セドリックはカトリーヌに婚約破棄を突きつけるはずよ」
予想以上に事態が進行していて、カトリーヌは驚いてしまった。
数日前の屋敷に来た時には、まだセドリックにそんな様子はなかったのだ。つまり数日で、セドリックはカトリーヌへの婚約破棄を決めたことになる。
「上手く進みすぎてない……?」
つい不安になったカトリーヌが問いかけると、コレットは苦笑しつつ口を開いた。
「そう思うのも無理ないわよね。セドリック、面白いぐらい予想通りに動いてくれるんだもの。あんなに操られやすくちゃ、王としてなんてやっていけるわけないわ」
もう王子であるセドリックへの批判を隠そうともしないコレットだが、カトリーヌもだんだんと形だけでも擁護をする気になれなくなっていた。
誰もコレットの言葉を否定することなく、話が進む。
「作戦がどう進んだのか聞いてもいいだろうか」
エルベルトの問いかけに、コレットは笑顔で頷いた。
「もちろんですわ。まず私がデボラから嫌がらせをされたのは――」
それからコレットが説明したことをまとめると、まずデボラは予想通りにコレットのドレスを破り捨てたり、階段から突き落とそうとしたりあからさまな嫌がらせをしてきたそうだ。
コレットが少し隙を見せただけで、すぐに乗ってきたらしい。
「デボラもかなりの馬鹿ね」
コレットは呆れたようにそう言っていた。
そしてそんな嫌がらせをいつセドリックに伝えようかと思っていたところ、セドリックがコルディエ侯爵家に強襲するというあの事件が起きた。無事にエルベルトのことは誤魔化してセドリックを追い返すことができたが、追い返されたセドリックは城に帰ってもカトリーヌへの八つ当たり的な怒りが収まらなかったようだ。
そこにちょうどコレットが呼ばれ、最近嫌がらせをされたのだと相談した。
すでにカトリーヌへの怒りが最大まで上がっていたセドリックは予定通りに勘違いし、カトリーヌをどうすれば痛めつけられるのか、苦しめられるのかを考えだしたらしい。
「私はできる限り嘘をつかずセドリックが勝手に勘違いしたことにしたかったから、嫌がらせで心が疲弊したためパーティーまでは休むと伝えて早々に帰ったわ。嫌がらせをされた証言だけは頑張ると伝えてね」
セドリックからカトリーヌへの婚約破棄を相談されてしまえば、嫌がらせの相手が違うことを伝えないのは意図的になってしまうため、コレットはもうセドリックと当日まで会わないのが理想だろう。
「では、セドリックが本当に婚約破棄を突きつけてくるかは分からないのだな」
真剣な表情で問いかけたエルベルトに、コレットは楽しげな笑みを見せる。
「そうなのですが、ほぼ確実でしょう。実は、もう一つ仕掛けをしておきましたの」
コレットはセドリックの下を後にしてから、コレットの関与が分からないようにデボラをセドリックの下に呼んでいたのだそうだ。つまり、セドリックがデボラの罪をカトリーヌの罪と勘違いしてくれていると、デボラは知ったことになる。
「デボラの性格的に、真実を告げるなどあり得ません。むしろ、最大限に活用しようとするでしょう。そしてデボラは今度のパーティーで自らの側妃候補の立場を盤石にするため、かなり前から準備をしていました。そんなデボラがカトリーヌを引き摺り下ろせると知ったら……」
「パーティーでのわたしへの婚約破棄を、セドリック殿下に進言するということ?」
「ええ、それどころか空いた正妃の座に座れるかもなんて、そんな傲慢なことを考える女よ。身分的に無理なのにね。そしてセドリックもこの前カトリーヌに屋敷から追い返されたことで、反論不可能な公の場でカトリーヌに罪を突きつけてやろうと考えるはずだわ。パーティーの場でカトリーヌに婚約破棄を突きつけようって話になるのは、ほぼ必然でしょうね」
そこまで説明を聞いたところで、エルベルトが片手を上げる。
「少し待ってくれないか。デボラはカトリーヌが何もしていないことを知っているのだろう? それなのに嬉々としてカトリーヌへの婚約破棄を勧めるのか?」
尤もな疑問である。
「デボラは私への嫌がらせの証拠は何も残してないと思ってるはずです。実際に割と上手くやっていて、私が誘発した嫌がらせじゃなければ証拠は手に入れられなかったでしょう。なので証拠がなければ、誰が実行したのかは証言次第ということになります。セドリック殿下は私が嫌がらせを受けていると相談したことを、カトリーヌによってと思い込んでいるはずですから、デボラにも私がカトリーヌに嫌がらせを受けたと証言したと、そう伝えるでしょう。つまり、デボラが突き進む理由は揃っているというわけです」
コレットの説明に、エルベルトは納得するように頷く。
「しかし、君は実際にカトリーヌの名前を出していないし、パーティーの場で証言を求められたらデボラが犯人と告げるということだな」
確認に、コレットは極上の笑みを浮かべた。
「ええ、そうですわ。さらにデボラが犯人である証拠も持っております」
とっても楽しげなコレットに、カトリーヌは思わず苦笑を浮かべてしまった。
「コレット、色々と動いてくれて本当にありがとう」
「ううん。凄く楽しかったからいいのよ。やっぱり私はこういうの向いてるわ」
コレットはカトリーヌと違って、貴族社会に向いている性格なのだ。むしろコレットこそ、王妃になれば頼もしい存在なのだろう。相手がセドリックでは、絶対に嫌がるだろうが。
「でもカトリーヌ、まだ気を抜いちゃダメよ。本番はパーティーなのだから」
その言葉で、カトリーヌは気を引き締めた。
一気に緊張が襲ってくるが、ここまでコレットが頑張ってくれたのだ。パーティーでは自分も頑張らなければと気合いを入れる。
「もちろんよ」
そんな中で、エルベルトが口を開いた。
「そのパーティーだが、俺も参加することはできないだろうか。何かあったら助けに入れるように会場にいたいのだ」
提案はありがたいが、そこまで迷惑をかけるわけにはいかないとカトリーヌが断りかけたところで、先にコレットが答える。
「もちろん可能ですわ! 侯爵様のご友人としてご参加されれば良いのです。今回のパーティーは定期的に王城で開かれている、交流目的のパーティーです。貴族の招待があれば商人なども参加できるものですわ」
前のめりなコレットの説明に、エルベルトは頬を緩めた。
「では、コルディエ侯爵に頼んでみよう」
「それがよろしいと思います!」
カトリーヌが口を挟む間もなく、エルベルトも参加する方向で決まってしまった。すでに参加する気満々に見えるエルベルトを見たら今から遠慮するのも違う気がして、カトリーヌはありがたくエルベルトの厚意を受け取ることにする。
「では、パーティーでは頑張りましょう。カトリーヌの幸せな未来のために」
コレットのその声かけに、まずはエルベルトが頷く。
「もちろんだ」
カトリーヌはその言葉が嬉しくて、とても頼もしくて、自然と笑みを浮かべた。
「ありがとう。頑張るわ」
セドリックとの婚約破棄まで、あと少しだ。
「カトリーヌ! やったわよ!」
コレットは満面の笑みで、カトリーヌの顔を見た瞬間に抱きつく。いつもはあまりしないその様子から、コレットの嬉しさが窺えた。
「作戦が上手くいったの?」
「ええ! 侯爵様はいらっしゃるかしら。エルベルト様は?」
「お父様はお仕事よ。エルベルト様はいらっしゃるわ」
「ではひとまず、カトリーヌとエルベルト様に報告するわね」
そう言って意気揚々と応接室に向かうコレットを、慌ててカトリーヌが止める。
「ちょっと待って。エルベルト様も?」
エルベルトに同席してもらう必要はないのではないかと思ったのだ。しかしそんなカトリーヌの考えを聞いて、コレットは大袈裟なほどに目を見開いた。
「絶対に必要よ。ほら、エルベルト様は何かがあれば助けると仰ったじゃない。ちゃんとご報告しなければ失礼だわ」
詳細を聞かせれば、それだけ巻き込むことになり迷惑をかける。しかしすでに作戦を知っているエルベルトは巻き込まれているも同然であり、ここで変に遠ざけるのは逆に失礼かもしれない。
カトリーヌはそんな葛藤の末に、躊躇いながらも頷いた。
「確かに、そうかも」
「でしょう? ほら、早くエルベルト様も呼んできてちょうだい」
そうしてコレットの勢いに流されるような形で、カトリーヌとコレット、エルベルトの三人が屋敷の応接室に集まった。
使用人に準備してもらったお茶を飲んでから、コレットが先ほどまでよりも幾分か落ち着いた様子で口を開く。
「それで、さっそく本題でもいいかしら」
「ええ、お願い」
カトリーヌが頷くと、コレットは居住まいを正して結論から告げた。
「一週間後に王城で開かれる陛下主催のパーティーがあるでしょう? そのパーティーで、セドリックはカトリーヌに婚約破棄を突きつけるはずよ」
予想以上に事態が進行していて、カトリーヌは驚いてしまった。
数日前の屋敷に来た時には、まだセドリックにそんな様子はなかったのだ。つまり数日で、セドリックはカトリーヌへの婚約破棄を決めたことになる。
「上手く進みすぎてない……?」
つい不安になったカトリーヌが問いかけると、コレットは苦笑しつつ口を開いた。
「そう思うのも無理ないわよね。セドリック、面白いぐらい予想通りに動いてくれるんだもの。あんなに操られやすくちゃ、王としてなんてやっていけるわけないわ」
もう王子であるセドリックへの批判を隠そうともしないコレットだが、カトリーヌもだんだんと形だけでも擁護をする気になれなくなっていた。
誰もコレットの言葉を否定することなく、話が進む。
「作戦がどう進んだのか聞いてもいいだろうか」
エルベルトの問いかけに、コレットは笑顔で頷いた。
「もちろんですわ。まず私がデボラから嫌がらせをされたのは――」
それからコレットが説明したことをまとめると、まずデボラは予想通りにコレットのドレスを破り捨てたり、階段から突き落とそうとしたりあからさまな嫌がらせをしてきたそうだ。
コレットが少し隙を見せただけで、すぐに乗ってきたらしい。
「デボラもかなりの馬鹿ね」
コレットは呆れたようにそう言っていた。
そしてそんな嫌がらせをいつセドリックに伝えようかと思っていたところ、セドリックがコルディエ侯爵家に強襲するというあの事件が起きた。無事にエルベルトのことは誤魔化してセドリックを追い返すことができたが、追い返されたセドリックは城に帰ってもカトリーヌへの八つ当たり的な怒りが収まらなかったようだ。
そこにちょうどコレットが呼ばれ、最近嫌がらせをされたのだと相談した。
すでにカトリーヌへの怒りが最大まで上がっていたセドリックは予定通りに勘違いし、カトリーヌをどうすれば痛めつけられるのか、苦しめられるのかを考えだしたらしい。
「私はできる限り嘘をつかずセドリックが勝手に勘違いしたことにしたかったから、嫌がらせで心が疲弊したためパーティーまでは休むと伝えて早々に帰ったわ。嫌がらせをされた証言だけは頑張ると伝えてね」
セドリックからカトリーヌへの婚約破棄を相談されてしまえば、嫌がらせの相手が違うことを伝えないのは意図的になってしまうため、コレットはもうセドリックと当日まで会わないのが理想だろう。
「では、セドリックが本当に婚約破棄を突きつけてくるかは分からないのだな」
真剣な表情で問いかけたエルベルトに、コレットは楽しげな笑みを見せる。
「そうなのですが、ほぼ確実でしょう。実は、もう一つ仕掛けをしておきましたの」
コレットはセドリックの下を後にしてから、コレットの関与が分からないようにデボラをセドリックの下に呼んでいたのだそうだ。つまり、セドリックがデボラの罪をカトリーヌの罪と勘違いしてくれていると、デボラは知ったことになる。
「デボラの性格的に、真実を告げるなどあり得ません。むしろ、最大限に活用しようとするでしょう。そしてデボラは今度のパーティーで自らの側妃候補の立場を盤石にするため、かなり前から準備をしていました。そんなデボラがカトリーヌを引き摺り下ろせると知ったら……」
「パーティーでのわたしへの婚約破棄を、セドリック殿下に進言するということ?」
「ええ、それどころか空いた正妃の座に座れるかもなんて、そんな傲慢なことを考える女よ。身分的に無理なのにね。そしてセドリックもこの前カトリーヌに屋敷から追い返されたことで、反論不可能な公の場でカトリーヌに罪を突きつけてやろうと考えるはずだわ。パーティーの場でカトリーヌに婚約破棄を突きつけようって話になるのは、ほぼ必然でしょうね」
そこまで説明を聞いたところで、エルベルトが片手を上げる。
「少し待ってくれないか。デボラはカトリーヌが何もしていないことを知っているのだろう? それなのに嬉々としてカトリーヌへの婚約破棄を勧めるのか?」
尤もな疑問である。
「デボラは私への嫌がらせの証拠は何も残してないと思ってるはずです。実際に割と上手くやっていて、私が誘発した嫌がらせじゃなければ証拠は手に入れられなかったでしょう。なので証拠がなければ、誰が実行したのかは証言次第ということになります。セドリック殿下は私が嫌がらせを受けていると相談したことを、カトリーヌによってと思い込んでいるはずですから、デボラにも私がカトリーヌに嫌がらせを受けたと証言したと、そう伝えるでしょう。つまり、デボラが突き進む理由は揃っているというわけです」
コレットの説明に、エルベルトは納得するように頷く。
「しかし、君は実際にカトリーヌの名前を出していないし、パーティーの場で証言を求められたらデボラが犯人と告げるということだな」
確認に、コレットは極上の笑みを浮かべた。
「ええ、そうですわ。さらにデボラが犯人である証拠も持っております」
とっても楽しげなコレットに、カトリーヌは思わず苦笑を浮かべてしまった。
「コレット、色々と動いてくれて本当にありがとう」
「ううん。凄く楽しかったからいいのよ。やっぱり私はこういうの向いてるわ」
コレットはカトリーヌと違って、貴族社会に向いている性格なのだ。むしろコレットこそ、王妃になれば頼もしい存在なのだろう。相手がセドリックでは、絶対に嫌がるだろうが。
「でもカトリーヌ、まだ気を抜いちゃダメよ。本番はパーティーなのだから」
その言葉で、カトリーヌは気を引き締めた。
一気に緊張が襲ってくるが、ここまでコレットが頑張ってくれたのだ。パーティーでは自分も頑張らなければと気合いを入れる。
「もちろんよ」
そんな中で、エルベルトが口を開いた。
「そのパーティーだが、俺も参加することはできないだろうか。何かあったら助けに入れるように会場にいたいのだ」
提案はありがたいが、そこまで迷惑をかけるわけにはいかないとカトリーヌが断りかけたところで、先にコレットが答える。
「もちろん可能ですわ! 侯爵様のご友人としてご参加されれば良いのです。今回のパーティーは定期的に王城で開かれている、交流目的のパーティーです。貴族の招待があれば商人なども参加できるものですわ」
前のめりなコレットの説明に、エルベルトは頬を緩めた。
「では、コルディエ侯爵に頼んでみよう」
「それがよろしいと思います!」
カトリーヌが口を挟む間もなく、エルベルトも参加する方向で決まってしまった。すでに参加する気満々に見えるエルベルトを見たら今から遠慮するのも違う気がして、カトリーヌはありがたくエルベルトの厚意を受け取ることにする。
「では、パーティーでは頑張りましょう。カトリーヌの幸せな未来のために」
コレットのその声かけに、まずはエルベルトが頷く。
「もちろんだ」
カトリーヌはその言葉が嬉しくて、とても頼もしくて、自然と笑みを浮かべた。
「ありがとう。頑張るわ」
セドリックとの婚約破棄まで、あと少しだ。