愚かな婚約者様、あなたの"浮気相手"は私の味方ですよ? 〜手を組んだ2人の才女による華麗なる制裁〜
27、パーティー開始前の騒動
「我がファーブル王国を支える者たちよ。国をより一層発展させるため、今宵は有意義な時間を過ごすように」
パーティーでいつも国王が告げる決まり文句だ。
感情が乏しく、とにかく国を発展させるという目標のために人生を捧げている国王は、今回のようなパーティーでも楽しむという気持ちはなく、ひたすら国のための行事である。
この二人がセドリックの両親だと思うと、国のトップであるというのは分かっていても、カトリーヌは二人への苦手意識が強くあった。
「ではグラスを持て」
この後は、国王による乾杯の音頭と共にパーティーが始まるのだが――。
「父上、少し時間をください!」
その前に、セドリックが声を張った。
セドリックは壇上に上がる階段の下に向かい、そこから壇上の国王を見上げる。
「セドリックか。なんだ? 今この場ですべき重要なことなのか?」
「はい。この国の未来を左右する大切な事象でございます」
「分かった。少し時間をやる」
国王の許可が出て、セドリックは大袈裟に頭を下げた。
「ありがとうございます!」
壇上まで十段ほどある階段を中程まで上がると、くるりと会場を振り返った。そしてニンマリと加虐的な笑みを見せ、階段の下を指差す。
「カトリーヌ・コルディエ、そこに移動しろ」
「わ、わたしですか……?」
何が始まるのか分かっていたが、カトリーヌは必死に何も知らない演技をした。緊張から自然と声が震えたので、不安がっているようにセドリックには映ったらしい。
「お前しかいないだろう? 早くしろ。第一王子である私の言葉だぞっ」
「か、かしこまりました」
カトリーヌが足早に階段の下に向かうと、セドリックは別の場所に視線を向けた。
「コレットもこちらに」
コレットのことは自分の隣に呼ぶ。デボラはどこかで出てくるのだろうかとカトリーヌが疑問に思っていると、視界の端に前方へと移動してきているデボラが映った。
おそらくカトリーヌの断罪が終わってから、セドリックに紹介などをしてもらう算段となっているのだろう。いつも派手なドレスや化粧が、今日は三割増しだった。
デボラに意識を向けている間に、コレットが粛々とセドリックの隣に向かう。カトリーヌはそんなコレットの姿に勇気をもらった。
(コレットがこんなにも頑張ってくれたのだから、わたしも頑張らなくては)
静かに深呼吸をしていると、セドリックは隣にやってきたコレットに気遣わしげな視線を向け、その腰を抱いた。
そして階段の下にいるカトリーヌをビシッと指差す。セドリックの瞳には、嫌悪や蔑み、愉悦が滲んでいた。
「カトリーヌ、今この時を持ってお前との婚約は破棄する!」
意気揚々と告げたセドリックは、さらにコレットの腰を抱く腕に力を入れた。
「私に隠し事はできんぞ。貴様の所業は全て分かっているのだ! 私の寵愛を受けているコレットを妬むなど、王妃として相応しくない! 元はと言えば、お前に可愛げがないのが悪いのだ。婚約者のくせに私を満足させるどころかイラつかせるばかり、そんなお前を許容してやってる私が他の女に目を向けたら醜い嫉妬。一国の王となる私が側室を持つのは普通のことだ。今からコレットを妬んでいるようなお前に、私の隣に立つ資格はない!」
言い切ったセドリックは、気持ちよさそうに口角をあげると、どこか勝ち誇ったようにカトリーヌを見下した。
カトリーヌは緊張から震える両手をギュッと握り締めて、作戦を悟られないように口を開く。
「セドリック殿下、わたしが何をしたというのでしょう……?」
緊張から声が震えたカトリーヌに、セドリックはニンマリとした笑みを浮かべた。婚約破棄を突きつけられて、カトリーヌがショックを受けているとでも思っているのだろう。
「はっ、しらを切るつもりか! そんなもの私には通用しないぞ! 貴様がコレットのドレスを破り捨てたことも、階段から突き落とそうとしたことも、全て把握しているっ。大人しそうな顔をして、そんな陰湿な嫌がらせをするとはな。こうなっては、いくら父上が決められた婚約者とはいえ私に適さない! 貴様が拒んでも婚約は破棄だ!」
会場中に響く声で叫んだセドリックは、隣に並ぶコレットに視線を向けた。そしてカトリーヌに向けているものとは全く違う柔らかい声音で、確認するように問いかける。
「そうだな、コレット?」
カトリーヌが冒した罪の同意を得ようとしたセドリックに、コレットは首を傾げながらはっきりと告げた。
「セドリック殿下、何を仰っているのですか?」
セドリックにとっては予想外な言葉だったのだろう。目を見張って少し焦りを見せる。
「き、君こそ何を言ってるんだ? コレットが傷つけられた話だろっ」
「確かに、先ほど殿下が仰った嫌がらせをされました」
「そ、そうだよな」
コレットが頷いたことにホッとした様子のセドリックだが、そんなセドリックをまた混乱と焦りの渦に落とすように、コレットは告げた。
「しかし、その嫌がらせにカトリーヌ様は関係ありません」
「は?」
セドリックは間抜けな声を上げる。
「私はカトリーヌ様のお名前など一度も出しておりません」
「なっ……」
慌てて過去を思い出すように視線を彷徨わせているセドリックは、コレットの指摘が正しいと判断できたのかもしれない。
唇をキツく噛み締めてから、ヤケになったように叫んだ。
「しかしっ、カトリーヌがコレットを妬んでるのは確実だ! 分かった、コレットが勘違いをしてるんだ。カトリーヌは嫌がらせに関わってるに違いない。もしかしたら、カトリーヌが黒幕かもしれないぞ。あいつは悪知恵が働きそうだからなっ」
なんの根拠もないことを次から次へと話している。
「カトリーヌ、貴様が裏で糸を引いてたんだろ! 全てを白状しろ!」
根拠のない推測から、カトリーヌに詰め寄る始末だ。
壇上の国王が睨むようにやり取りを見守る中で、コレットがまた口を開く。
「殿下、その可能性はありません」
そう言ったコレットは、ほんの僅かに口角を上げた。カトリーヌだけはそれに気づき、少しハラハラする。
「私は犯人を捕まえようと、証拠を集めておりました。必要な証拠はほとんど揃っていますが、カトリーヌ様の関与は一切ございません」
「なっ……」
完全に二の句を継げなくなったセドリックから、コレットはさりげなく距離を取った。
そして、真犯人を告げる。
「私に嫌がらせをしていたのは、デボラ様です」
コレットに指差される形になったデボラは、驚きと悔しさと怒りが滲んでいる表情で叫んだ。
「私はそんなことしてないわ!」
「ですが、証拠が揃っております。もちろん後で全て提出いたします」
一応反論したデボラだが、自信満々のコレットに何も言えなくなったらしい。実際に嫌がらせをしたのはデボラなのだから、それも当然だろう。
押し黙ったデボラに、今度はセドリックが叫ぶ。
「お前っ、私を騙したのか⁉︎」
セドリックの怒りの矛先はデボラに向いたようだ。セドリックの視点では、デボラだけが意図的にセドリックを騙したのだからそれも当然だろう。
しかし、デボラが放心状態でなんの反応も示さないとなると、今度はコレットに矛先を向ける。
「お前も犯人が分かったならなぜ私に言わないのだ! お前が嫌がらせをされたと言ってきたのが全ての始まりだぞ⁉︎」
さらにはカトリーヌにまで怒りを向け始めた。
「カトリーヌも普段から疑われるようなことをしているから悪いのだ! 私は皆に騙されただけだ!」
ひたすら他人のせいにして自分は悪くないと喚くセドリックを、国王の一言が止めた。
パーティーでいつも国王が告げる決まり文句だ。
感情が乏しく、とにかく国を発展させるという目標のために人生を捧げている国王は、今回のようなパーティーでも楽しむという気持ちはなく、ひたすら国のための行事である。
この二人がセドリックの両親だと思うと、国のトップであるというのは分かっていても、カトリーヌは二人への苦手意識が強くあった。
「ではグラスを持て」
この後は、国王による乾杯の音頭と共にパーティーが始まるのだが――。
「父上、少し時間をください!」
その前に、セドリックが声を張った。
セドリックは壇上に上がる階段の下に向かい、そこから壇上の国王を見上げる。
「セドリックか。なんだ? 今この場ですべき重要なことなのか?」
「はい。この国の未来を左右する大切な事象でございます」
「分かった。少し時間をやる」
国王の許可が出て、セドリックは大袈裟に頭を下げた。
「ありがとうございます!」
壇上まで十段ほどある階段を中程まで上がると、くるりと会場を振り返った。そしてニンマリと加虐的な笑みを見せ、階段の下を指差す。
「カトリーヌ・コルディエ、そこに移動しろ」
「わ、わたしですか……?」
何が始まるのか分かっていたが、カトリーヌは必死に何も知らない演技をした。緊張から自然と声が震えたので、不安がっているようにセドリックには映ったらしい。
「お前しかいないだろう? 早くしろ。第一王子である私の言葉だぞっ」
「か、かしこまりました」
カトリーヌが足早に階段の下に向かうと、セドリックは別の場所に視線を向けた。
「コレットもこちらに」
コレットのことは自分の隣に呼ぶ。デボラはどこかで出てくるのだろうかとカトリーヌが疑問に思っていると、視界の端に前方へと移動してきているデボラが映った。
おそらくカトリーヌの断罪が終わってから、セドリックに紹介などをしてもらう算段となっているのだろう。いつも派手なドレスや化粧が、今日は三割増しだった。
デボラに意識を向けている間に、コレットが粛々とセドリックの隣に向かう。カトリーヌはそんなコレットの姿に勇気をもらった。
(コレットがこんなにも頑張ってくれたのだから、わたしも頑張らなくては)
静かに深呼吸をしていると、セドリックは隣にやってきたコレットに気遣わしげな視線を向け、その腰を抱いた。
そして階段の下にいるカトリーヌをビシッと指差す。セドリックの瞳には、嫌悪や蔑み、愉悦が滲んでいた。
「カトリーヌ、今この時を持ってお前との婚約は破棄する!」
意気揚々と告げたセドリックは、さらにコレットの腰を抱く腕に力を入れた。
「私に隠し事はできんぞ。貴様の所業は全て分かっているのだ! 私の寵愛を受けているコレットを妬むなど、王妃として相応しくない! 元はと言えば、お前に可愛げがないのが悪いのだ。婚約者のくせに私を満足させるどころかイラつかせるばかり、そんなお前を許容してやってる私が他の女に目を向けたら醜い嫉妬。一国の王となる私が側室を持つのは普通のことだ。今からコレットを妬んでいるようなお前に、私の隣に立つ資格はない!」
言い切ったセドリックは、気持ちよさそうに口角をあげると、どこか勝ち誇ったようにカトリーヌを見下した。
カトリーヌは緊張から震える両手をギュッと握り締めて、作戦を悟られないように口を開く。
「セドリック殿下、わたしが何をしたというのでしょう……?」
緊張から声が震えたカトリーヌに、セドリックはニンマリとした笑みを浮かべた。婚約破棄を突きつけられて、カトリーヌがショックを受けているとでも思っているのだろう。
「はっ、しらを切るつもりか! そんなもの私には通用しないぞ! 貴様がコレットのドレスを破り捨てたことも、階段から突き落とそうとしたことも、全て把握しているっ。大人しそうな顔をして、そんな陰湿な嫌がらせをするとはな。こうなっては、いくら父上が決められた婚約者とはいえ私に適さない! 貴様が拒んでも婚約は破棄だ!」
会場中に響く声で叫んだセドリックは、隣に並ぶコレットに視線を向けた。そしてカトリーヌに向けているものとは全く違う柔らかい声音で、確認するように問いかける。
「そうだな、コレット?」
カトリーヌが冒した罪の同意を得ようとしたセドリックに、コレットは首を傾げながらはっきりと告げた。
「セドリック殿下、何を仰っているのですか?」
セドリックにとっては予想外な言葉だったのだろう。目を見張って少し焦りを見せる。
「き、君こそ何を言ってるんだ? コレットが傷つけられた話だろっ」
「確かに、先ほど殿下が仰った嫌がらせをされました」
「そ、そうだよな」
コレットが頷いたことにホッとした様子のセドリックだが、そんなセドリックをまた混乱と焦りの渦に落とすように、コレットは告げた。
「しかし、その嫌がらせにカトリーヌ様は関係ありません」
「は?」
セドリックは間抜けな声を上げる。
「私はカトリーヌ様のお名前など一度も出しておりません」
「なっ……」
慌てて過去を思い出すように視線を彷徨わせているセドリックは、コレットの指摘が正しいと判断できたのかもしれない。
唇をキツく噛み締めてから、ヤケになったように叫んだ。
「しかしっ、カトリーヌがコレットを妬んでるのは確実だ! 分かった、コレットが勘違いをしてるんだ。カトリーヌは嫌がらせに関わってるに違いない。もしかしたら、カトリーヌが黒幕かもしれないぞ。あいつは悪知恵が働きそうだからなっ」
なんの根拠もないことを次から次へと話している。
「カトリーヌ、貴様が裏で糸を引いてたんだろ! 全てを白状しろ!」
根拠のない推測から、カトリーヌに詰め寄る始末だ。
壇上の国王が睨むようにやり取りを見守る中で、コレットがまた口を開く。
「殿下、その可能性はありません」
そう言ったコレットは、ほんの僅かに口角を上げた。カトリーヌだけはそれに気づき、少しハラハラする。
「私は犯人を捕まえようと、証拠を集めておりました。必要な証拠はほとんど揃っていますが、カトリーヌ様の関与は一切ございません」
「なっ……」
完全に二の句を継げなくなったセドリックから、コレットはさりげなく距離を取った。
そして、真犯人を告げる。
「私に嫌がらせをしていたのは、デボラ様です」
コレットに指差される形になったデボラは、驚きと悔しさと怒りが滲んでいる表情で叫んだ。
「私はそんなことしてないわ!」
「ですが、証拠が揃っております。もちろん後で全て提出いたします」
一応反論したデボラだが、自信満々のコレットに何も言えなくなったらしい。実際に嫌がらせをしたのはデボラなのだから、それも当然だろう。
押し黙ったデボラに、今度はセドリックが叫ぶ。
「お前っ、私を騙したのか⁉︎」
セドリックの怒りの矛先はデボラに向いたようだ。セドリックの視点では、デボラだけが意図的にセドリックを騙したのだからそれも当然だろう。
しかし、デボラが放心状態でなんの反応も示さないとなると、今度はコレットに矛先を向ける。
「お前も犯人が分かったならなぜ私に言わないのだ! お前が嫌がらせをされたと言ってきたのが全ての始まりだぞ⁉︎」
さらにはカトリーヌにまで怒りを向け始めた。
「カトリーヌも普段から疑われるようなことをしているから悪いのだ! 私は皆に騙されただけだ!」
ひたすら他人のせいにして自分は悪くないと喚くセドリックを、国王の一言が止めた。